猿を用いたうつ病の病態と治療の研究です。落ち込み行動の改善は、海馬ニューロン新生と関係していました、

 うつ病は、気持ちが落ち込み、かつ認知能の低下を伴う病気です。本日、紹介する論文は、抗うつ剤のフルオキセチン治療により、海馬での神経細胞新生がみられたという、コロンビア大学からの報告です。
 
従来の脳科学では、神経細胞であるニューロンは、生下時に数などは完成されていて、ニューロンの新生自体は少ないと考えられてきたのです。実は、人や動物の脳では、状況に応じて、ニューロン新生がおきていることがわかってきました。
 
今回は、霊長類のボネット・マカークという種類の猿を用いての研究です。抗うつ薬の有効性は、しばしば齧歯類(マウス系)を用いて検討されてきました。しかし、マウスより、霊長類(NHP)を用いた方が、より人の病気に近い病態を研究できると予想されます。この種類の猿は、群れる志向が強く、仲間と離すことにより強いストレスを感じます。それで、この猿に、仲間の動物を離すというストレスをかけ、人工的にうつ状態を作りました。この論文で使用された薬剤フルオキセチンは、米国で良く使われているSSRI(セロトニン再取組み阻害剤)です。

フルオキセチンFluoxetine (米国での薬剤名はProzac)は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIに分類され、主にうつ病や強迫観念などに使われます。その働きのメカニズムは、伝達物質のセロトニンを取り込みを阻害し(セロトニンが増える)、そしてヒスタミンやコリン作動性の伝達物質の結合を抑えます(抗コリン作用が出る)。この薬は、鎮静剤や低血圧、抗コリン剤、四環系抗うつ剤よりも、副作用が少なく使いやすいです。フルオキセチンは、妊婦にとっての危険度はBに指定されています(第一世代の抗うつ剤よりも安全性が高い)。
 
マウスは、脳内の神経細胞の新生や成熟は、人より早く、人では8-9週が必要と考えられていますが、霊長類ではその中間の6-7週間とされています。今回の研究では、6-7週間、抗うつ薬による治療をして、脳内でニューロン(神経細胞)の新生が促進されるかを調べました。
 
以下が論文です。
成人のメスのボネット・マカーク(猿)を、条件や環境を替えて、3群に分けました。
第1群では、抗うつ剤のフルオキセチン、または偽薬投与をして、15週間、観察しました。 
第2群は、猿に分離-ストレスを加えて、フルオキセチンまたは偽薬を投与して、15週、観察しました。
第3群は、2週間の照射(N = 4)または偽の照射(N = 2)をして、分離ストレスをかけて、フルオキセチンを投与しました。(照射をすると、ニューロンの新生が抑制され、グリア細胞が増加します。)
 
観察終了後には、動物はと殺され、脳の組織が検査されました。各群の行動の観察結果と照らし合わせて、脳内神経細胞の新生状況を観察しました。

結果:繰り返しの分離ストレスを猿に与えると、猿の海馬において、ニューロン新生が低下し、海馬の顆粒細胞領域が減少しました。そして、猿の行動の変化が観察されました。猿は、積極的な行動がなくなり、落ち込み状態となり活動が低下しました。
 
しかし、フルオキセチンを投与した群の猿では、活動性が回復し、海馬の歯状回ニューロン新生が促進されていることがわかりました。ニューロンの新生は、動物の落ち込みを防ぐと考えらました。
 
照射をしてニューロン新生を抑えると、フルオキセチンの治療効果が低下しました。 落ち込み行動の改善は、ニューロン新生と関係していました。しかし、ニューロン新生は、歯状回の前方部分に限られ、ここでのニューロン成熟に限局していました。PMID: 21525974 PLoS One. 2011 ;6(4):e17600.
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック