アルツハイマー病で、記憶が障害。その先の知識を知りたい方のために、ネーチャー論文

ウキペディアでは、アルツハイマー病を次のように説明しています。

アルツハイマー病では、病理学的に脳組織の萎縮、大脳皮質の老人斑の出現がみられる。老人斑はアミロイドベータ (Aβ) の沈着であることが明らかになっている。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC%E5%9E%8B%E8%AA%8D%E7%9F%A5%E7%97%87
 
アルツハイマー病は、記憶障害がおき、神経細胞が消失する結果、脳が委縮していく病気ですが、それでは、なぜ、記憶が障害されてくるのか、その先の知識を知りたい方のために、ネーチャー論文を参考にしてください。2011年1月6日号を紹介します。
 
アルツハイマー病は、アミロイドベータが中枢神経細胞内に沈着してくるのですが、どのようになると、記憶にダメージがおきてくるのでしょうか?この謎を解明するために、科学者が良く使うのは、遺伝子を改変させた実験動物を使う手です。アミロイドベータを遺伝子的に入れ込んで、遺伝子改変動物(hAppマウス)を作ります。このマウスでは、脳内でアミロイドベータが多く産生されてしまいます。その結果、アルツハイマー病類似の症状となり、記憶の維持ができません。
 
アミロイドベータは、神経細胞のどこで増えてくるのか、その結果、脳にどのような影響が出てくるのかを観察しましょう。
 
神経細胞の表面には、チロシンリン酸化受容体NMDA受容体(グルタミン酸受容体の一種)があります。この受容体は、記憶と関係します。受容体は複数の蛋白でできていますが、リン酸がついたり、はなれたりすることで、受容体からの情報が、細胞内に伝わります。受容体の一部の構造は細胞の外に出ていて、他方の構造は細胞内にとどまります。受容体として機能している時は、細胞の表面に、受容体構造の大事な成分が集まっています。条件により、受容体が細胞内に隠れてしまうと、刺激が伝わらない、鈍い細胞になってしまいます。
 
正常な神経細胞では、NMDA受容体から刺激が入ると、細胞内にカルシウムが流入し、核内移動と転写がおき、記憶に必要な蛋白物質がつくられていきます。NMDA受容体は、記憶に関連する受容体なので、受容体を刺激された神経細胞は、活動電位が生じ(発火し)、維持されます。記憶に関連する発火は、その状態が維持され、蛋白合成を介して、記憶が長く残せるように仕組まれています。
 
さらに、遺伝子改変動物でアミロイドベータが増えてしまった時の、受容体で起きてくる変化を見ていきましょう。

アミロイドベータは、受容体蛋白EphB2蛋白に結合します。EphB2蛋白は、リン酸化と関係する蛋白質ですが、一部の構造を、細胞の外にだしているため、ここに、アミロイドベータが集まってしまいます。アミロイドベータ が結合したEphB2蛋白は、壊れてしまいます。遺伝子改変動物(hAppマウス)では、アミロイドベータ が増えているため、EphB2蛋白量が減少し、リン酸化も減少しています。その結果、受容体からの情報が伝わらなくなってしまうのです。アミロイドベータは、EphB2蛋白の細胞外部分に突き出したフィブロネクチンに結合します。
 
正常なEphB2蛋白は、受容体を細胞表面に集めることができます。EphB2蛋白が減少すると、NMDA受容体として機能せず、シナプスの伝導は低下し、細胞間のネットワークは低下してしまいます。
 
遺伝子改変動物(hAppマウス)では、アミロイドベータが、脳の歯状回で増加し、EphB2蛋白が作らなくなっています。その結果、hAppマウスは、記憶の保持ができないマウスになります。マウスは、泳がせる実験を繰り返しても、隠された水中ステップにすばやく到達することができないのです。
 
今回のネーチャー論文では、EphB2蛋白が、マウスの記憶を回復させることができるかどうかの実験にチャレンジしています。
 
遺伝子改変動物(hAppマウス)に、再度、EphB2蛋白を作らせる遺伝子導入したウイルスを脳内歯状回に注入しています。するとその結果、EphB2蛋白の増加したマウスでは、脳内に挿入した電極で測定したところ、シナプス電位も長く続くようになりました。記憶が低下したマウスの記憶を回復させることができました。EphB2蛋白が回復したマウスは、水中ステップに早く到達できるようになったのです。
 
将来的には、EphB2蛋白の増強させる薬の開発などが進み、治療により、人のアルツハイマー病の記憶改善につながる可能性があります。あるいは、アミロイドベータ がEphB2蛋白の外側部分に結合するのを阻止する物質の開発なども、考えられます。但し、他の脳細胞への影響など、高次機能脳の治療には、慎重を要します。

NMDA型グルタミン酸受容体は、グルタミン酸受容体の一種。記憶や学習、また脳虚血などに関わる受容体
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