脳科学の進歩をもってしても、脳の細胞の働きは今だに不明が多いです


臨床脳科学は、病気との関連において、まだ、闇の中だろうと書きました。闇のひとつが、グリア細胞の働きです。グリア細胞には、血液細胞由来の小グリアと、神経細胞由来の大グリアがあります。これを1昨日のブログに書きました。小グリアは、その起源が長い間、不明でした。
 
さらに、議論の対象となっているのは、グリア細胞の役割です。グリアは、膠の意味で、糊ではりつけるという意味があります。小グリアは、脳が安静時にある時は、静止状態にありますが、有事には白血球様の働きに帰ることができるようです。
 
一方、大グリア細胞の中で、代表的なアストロサイトには、不明な点が多いです。ニューロンと密にネットワークを組んでいますが、この役割に謎が多いです。一体、何をしているのでしょうか?アストロサイトは、他の細胞と密にネットワークを組み、一つの細胞が3万個ぐらいのシナプスを形成しています。ニューロンとシナプス結合していることから、神経伝達に関与しているのではないかと、長い間、研究が続けられてきました。しかし、電気生理学の手段を用いては、神経伝達への関与の働きを証明することができませんでした。
 
2010年11月のネイチャーの統合失調症の特集号の中の記事です。Kerri Smith氏 Nature Podcastの編集者が、「グリア細胞をめぐる論争」をかいています。
 
この記事は、小説風に始まります。昨年のアムステルダムで開かれたニューロサイエンスの国際学会のシンポジウムでのMcCarthy教授の容貌の描写から、記事が始まります。McCarthyは、この研究分野の重鎮で、ノースカロライナ大学医学部の遺伝学者です。黒のシャツで身をつつみ、黒のジーンズをはいた彼は、さっそうと演壇に立ちました。日焼けした顔に白髪、強い顎の線は意思の強さを伺わせ、その姿には、映画スターのようであったと書かれています。
 
ニューロンで神経伝達が起きる際、付近のアストロサイトにも、カルシウムの流入が起こることがみつかりました。昨日、私のブログで、ニューロンが伝達物質を出す時に、カルシウムの流入が起こることを言いました。アストロサイトが神経伝達に関与するというのは、それまでの教科書的知識をくすがえすことでした。
 
昨年、韓国の研究者が、小脳のアストロサイトがGABAを放出するとの発表や、フランスの研究者が、アストロサイトはD-セリンという神経伝達物質をだすと発表がありましたが、McCarthyは、神経伝達の証拠は十分でないと言いました。シナプスでは、ニューロンが多量の神経伝達物質を放出するので、アストロサイトのみの働きのみを見ることが難しいのです。アストロサイトだけをとりだして、実験室で培養しても、生理的条件とは異なります。人工的な培養条件で、カルシウムを加えても、アストロサイトからは何の反応もみられません。従来の実験では、アストロサイトからの神経伝達物質を証明できませんでした。
 
しかし、世界中の研究者は、アストロサイトと会話を始めました。それは、従来のニューロンを刺激するような手段ではだめで、アストロサイトに合った刺激をあたえなければいけないというものでした。アストロサイトに刺激を与える強さも長さも、ニューロンとは変えなければならないことがわかりました。静かに話しかけると、アストロサイトは静かに答えると、研究者は説明します。アストロサイトにカルシウムの流入がおきても、発生する電位はわずかで、シナプス部位では、捕まえられない可能性もあるとのことです。
 
タフツ大学のHaydonは、国際学会の同じ日に、McCarthyの講演の後、演壇にたち、彼の遺伝子改変マウス(カルシウムのシグナルを低下させてある)を用いて、アストロサイトが、神経伝達に関与することを示しました。
 
科学の世界では、新しい事実を証明していくことのむずかしさ、解明した事実を用いて、人の脳機能を理解していくことの難しさがありますが、そうした研究者たちの熱い思いが垣間見えように、記事は書かれています。
 
図には、2つのニューロンとアストロサイトの三つ巴のシナプスが描かれています。神経伝達とは、一方のニューロンから伝達物質(黄色)が放出されて、他方のニューロンが受容体(緑の突起)で受け止めて、その結果、伝達が起きます。黄色と緑のニューロンの図は、どこでも見ることができますが、そこに水色のアストロサイトのシナプスもからんでいる図を見る機会は少ないと思います。主要な伝達物質顆粒(黄色)に加えて、水色アストロサイトからの、水色の伝達物質も関与することをしめした図です。
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