男性は恐怖を感じなくなるようにしくまれ、女性はそれを欠く(エストロゲンの影響)

ストレスが続くと、それに対抗する(ストレスをがまんする)ために、人は心のエネルギーを失っていきます。心のロス状態が回復できないでいると、うつや不安障害が高まります。恐怖を感じることもストレスの一種ですが、恐怖はまず扁桃体で感じ、大脳がそれを修飾することを、前回のブログに書きました。
 
エネルギーの残っている時の大脳皮質は、恐怖に対抗しようとしますが、時には、大脳が恐怖を増強させることがあるわけです。恐怖を感じると、血圧や脈拍があがり、血糖も上昇しストレスに対抗します。しかし、PTSDなどでは、さしせまった恐怖が無い状態で、不安や恐怖が高まります。本来、不安に対抗するように準備された体のしくみが、ストレスをさらに増強してしまう方向に働いてしまいます。
 
不安発作は、視床下部から分泌されるコルチコトロピン放出因子(CRF)が影響します。ストレスを感じた動物は、視床下部-下垂体-副腎系が活性化します。これを略してHPA axis(HPA軸)と呼びます。このしくみも本来は、恐怖ストレスを治めるために準備されているのですが、この反応が恐怖を治めず、逆に高まるようになっていくと、不安障害、PTDS(外傷後ストレス症候群)が起きてきます。特に、女性はこうした不安発作の頻度が高くなっています。その理由は、女性は男性と比べ、低レベルのコルチコトロピン放出因子(CRF)に反応し、さらにストレスが強くなっても、コルチコトロピン放出因子(CRF)が、ストレスを治める方向へ対応していくことができにくいのです。
 
男性は普段から、コルチコトロピン放出因子(CRF)を感じ取る受容体蛋白が低値で、ストレス時には増加するものの、ストレスが持続すると、細胞表面でCRF受容体が内包化という現象を起こします。受容体が隠れてしまう生体反応です。内包化したCRF受容体は感度がにぶり、恐怖の克服ができます。つまり、男性は過度のストレスを感じないように(勇敢であるように)、神経がしくまれているようです。つまり、恐怖の高まり時に強くなれるようです。男性の戦場で感じる高揚感と相通じるのかもしれません。
 
このコルチコトロピン放出因子(CRF)は、遺伝子から合成されるタンパク質です。この物質のでき方は、個人差があり、かつ、性差があることがわかってきました。さらに、遺伝子の発現に、エストロゲンを感じ取る部分があり、エストロゲンはコルチコトロピン放出因子量に影響を与えます。エストロゲンは不安を増強させる因子として働く事が多いようです。つまり、ここでも、不安発作における「エストロゲンの多彩な神経作用を垣間見ることができます。
 
ラットで、コルチコトロピン放出因子の性差を証明した論文を紹介します。Mol Psychiatry 2010;15:896

受容体はG蛋白と結合して(c-AMPによるエネルギーを得て)機能します。今回は、受容体蛋白とG蛋白の結合状態に、メスとオスで差があることを証明しています。また、受容体を働かせなくする(恐怖の感度を落とす)しくみについても、性差があることを証明しています。
 
オス・メスのラットに、コルチコトロピン放出因子(CRF)に対するLCニューロン(Locus cerueus)活性化の程度を、調べました。実験は、コルチコトロピン放出因子(CRF)を投与して、LCニューロンの発火の増強を測定しました。受容体が増加していると、コルチコトロピン放出因子(CRF)投与により、ノルエピネフリン作動性LCニューロン の活性化(発火)が増加します。さらに、ラットにおいて、ストレスが無い状態と、ラットを泳がせてストレスをかけた(スイムテスト)後で、LCニューロン発火の変化を見ました。
 
ストレスが無い状態では、オスラットでは、低用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)を投与しても、LCニューロンの発火は見られず、スイム後(ストレス後)では、LCニューロン は発火しました。一方、メスラットでは、ストレスが無い状態でも、低用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)の投与で発火し、スイム後(ストレス後)では、LCニューロンの発火の増強はありませんでした。
 
高用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)を投与した場合には、オスでは平時も反応(発火)しましたが、スイム後は反応が低下しました。一方、メスでは平時も強く反応し、スイム後の反応の減弱は少ないという結果でした。
 
高用量のコルチコトロピン放出因子(CRF)に対して、反応が起きなくなる理由は、受容体に内包化が起きて、受容体が感じ難くなるためです。この受容体の内包化の働きを担うベータアレスチン2蛋白の働きに性差がありました。
 
オスでは受容体にベータアレスチン2蛋白が結合して、受容体の内包化へと、ベータアレスチン2蛋白がしっかり働くのに対し、メスでは受容体にベータアレスチン2蛋白が働きにくいという結果でした。メスではスイムテスト後、時間がたっても、受容体の内包化が起きずに、ストレスを感じやすい状態が続きました。
 
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック