ESは元々、受精卵の性質を受け継ぎ、一度も末へ分化したことがない細胞であり、iPSは、一旦分化した細胞であるが、人工的改変させられており、自然界には存在しない細胞である。
一方、実存する動物に存在する間葉系幹細胞MSCも、多種の細胞に変化する能力を有する。これは、自然界に存在する細胞であり、この細胞の質が解明されることは、臨床応用の意味が大きい。
前回の記事で、間葉系幹細胞MSCには免疫調節作用、多くは抑制系の作用があると書いた。
この書き込みで、なぜ?と考えた方はいるだろうか?
生きてる動物は、分化や増殖がイケイケどんどん進んしまうと、体が壊れてしまうからである。
人工的に増殖し続ける臓器を持つ実験動物を作出することは可能だが、正常な動物では、必ず、抑える働きが起きて、生体は調整がされるのである。
間葉性の幹細胞MSCは、損傷した組織や臓器を修復するが、その作業が行き過ぎないように、必ず、抑制のしくみを内包している。
感染症や、損傷(外傷など)では、その原因となっている因子が消失すれば、炎症は収まることを考えれば、理解が早い。
傷が治り、感染因子がいなくなれば、炎症は消褪する。
しかし、困ったことに、MSCは、常に、救済的に体をサポートしているわけでなない。
がんにおいては、その増殖と浸潤に、MSCの変幻自在性が利用されているのである。
そして、がんを取り巻く細胞は、どのような質の細胞が変化してくるかの詳細は明らかになっていない。
MSCの変幻自在性は、STAP細胞の謎を考える時に参考になると思う。
そこは、人がまだ解明できてない科学分野である。
今回は、ここに少し触れたい。
がん免疫においても、体内の間葉系幹細胞MSCが活躍するとの話である。
この場合は、感染症や損傷の場合のようにはいかない。
進行性がんの場合は、がん消褪に向けた免疫作業を弱らせる仕組みが働くため、がんはますます消失しなくなる。
がん細胞浸潤部位には、がん攻撃性リンパ球が増えているが、そのリンパ球が表出してくるPD1分子が増加すると、リンパ球のがん攻撃力が弱ってしまう。
結果、がん攻撃性のンパ球弱体化を阻止する免疫チェックポイント阻害薬(抗PD1抗体)が薬剤として開発され、実際に臨床応用されている。
今はやりの高価な抗がん剤である。
抗PD1抗体については、ネット情報が山盛りなので見てほしい。
オプジーボ(一般名:ニボルマブ)は抗ヒトPD-1モノクローナル抗体だ。
ざっとこれら薬剤のネット情報を見たところ、いろいろ情報提供が書かれている。
しかし、一定の治療効果は得られているものの、抗PD1抗体の治療効果には限界がある。
機序についても、現在、さまざまな理論が飛び交っている状態である。
さて、ここで大事なことは、抗がんの薬剤効果は、なぜ、さまざまなのか?ということに思いをはせる事だと思う。
人の免疫が多様である事実を肝に銘じてほしい。
今、はやりのコロナウイルス感染症で、死亡する人から、無症状の人までいる。この事からもわかるように、ウイルス制御に各人ごとの多様性がある。誰か一人が生き残るための免疫の多様性である。
ここで大事な事は、免疫反応は、ウイルス動勢に関連して、常に入れ替わっていくと言う事実だ。初期には、はなのどの初期免疫が立ち上がり、感作リンパ球や抗体は主要でない。それで、ウイルス排除ができないと、次第に防御免疫から獲得免疫へとリレーされ、防御免疫が複雑化し、個人差が治療の壁に大きく立ちはだかる。医療者は苦労するが、一般人の中には、医療者が治療を間違った!と誤解する人が出てくる。生半可な知識人の弱点である。
特に、がんは感染症とは異なり、自らの細胞の一部であるため、さらに、薬剤の効果に多様性が生じる原因となっている。
自らの一部なる体細胞の反乱であるがんに対して、うまく攻撃して、ガン撲滅に至らしめることが可能か?不可能か?に、個人の免疫の質が関係する。
うまくやれる人と、うまくやれない人の差異だ。
これについて、どの位の要因を挙げられるかで、その人の科学力が試されるかも・・・。
がん免疫が強い人と、弱い人の差でしょ!と、簡単に片づける前に、がん細胞の立場にたって、同様のことを考えてみる。
生き残るがん、転移するがんと、消失してしまうがんがある。
がん細胞の生存も、同様の条件下にある。
今回、がん細胞を持ち出したのは、がんの生育においても、MSCの役割が大きいことを紹介するためである。
がん細胞は、生き残るためのスキルがある。
がんを攻撃してくる免疫細胞を弱らせるために、がん側が持つスキルである。
がんの、がんによる、がんのための戦略だ。
がん障害性T細胞を減らす。MHCクラスIを低下させる。Treg細胞を浸潤させる、PD-L1を発現させる、エクソソームを分泌させる・・・・。その他、いろいろ
そもそも、がんとは、ゲノムの不安定性と変異で代表される細胞だが、持続的な増殖シグナルがあり、細胞死を回避し、血管新生の能力、増殖抑制因子の回避などの能力を、がん細胞が獲得している。
この能力に応じて、局所のがん浸潤.拡大と、がん転移が決まってくる。
残念なことに、がんは、[治らない損傷] と言われたりもする。
生じたがんに対して生体は、がんをとりまく微小環境を作り上げる。
この微小環境の形成は、結果として、必ずしも生体を守る方向につながるわけではない。
がん促進的な生体環境になる側面がある。
がん周囲環境のメインを占めるMSCが、がんの増殖に関与する。
そして、がん腫瘍の周りに浸潤しているMSCは、どこからどう生じてくるのかは、今の科学力では判然としないままであることに注目しよう。
がんの周囲には、マクロファージも浸潤しているが、がん抑制的に働くマクロファージ(炎症性サイトカインIL-16,12,23の分泌、MHC発現、iNOS増加・・・)もあれば、がん促進的に働くマクロファージ(血管新生と組織のリモデリング・・・)もある。
そして、両者は可塑性である。
がんの治療に向けた薬剤の開発などの研究の努力は続いていく。
生体のストレス下において、MSCは極めて大事だし、同様に、動物から取り出した細胞自体がストレス下に置かれた時も、このMSCの関与は大きいだろう。
感染症においても、がんにおいても、細胞初期化現象においても、:それぞれ機能する細胞は、どのような起源や細胞の改変の結果、生じてじてくるのか?の理解は、今はまだ、解明途上だ。
細胞を扱う研究者は、細胞の持つ感知機能と、その結果に起きる細胞改変を目の当たりにしている。自身の実験系に異質な細胞があったら、実験はそこで再検討となるはずだ。
しかし、細胞を知らない人は、細胞の感知能力がイメージできない。細胞の潜在能力に触れると、オカルト?言葉のサラダ?とか言い出す。細胞を知らない人は、自らの無知全開を振り返らずして、悪口コメントを書いてしまう。
人は、知らない領域の話題が理解できないと、己の無知を反省するが、それができずに、他人を責める人は、世の中に案外、多いようだ。
PDL1のウイキの説明は、下のようになっている。妊娠の時も活躍してるんだね。
>Programmed death-ligand 1 (PDL1) is a 40kDa type 1 transmembrane protein that has been speculated to play a major role in suppressing the adaptive arm of immune system during particular events such as pregnancy, tissue allografts, autoimmune disease and other disease states such as hepatitis.
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