慢性腸炎の原因究明に向けて、努力がつづけられています。人の腸は雑多でなければならないのです。

昨日、AIEC菌(adherent-invasive Escherichia coli)の話しをしました。医学誌Gastroenterology慢性腸炎特集号で、著者Chassaingらは、論文上で次のように述べています。
 
慢性腸炎の原因菌が単一であるとの考えは捨てなければならない。本来、健康な人の腸内細菌は、多様でなければならない。そうした究極のバランスが崩れてDisbiosis(繁殖様式破綻)の状態となった時、腸管に、自然及び獲得免疫の異常が起きてくる。異常な菌の増殖状態は、クローン病や潰瘍性大腸炎の結果なのか、原因なのかはわからない。腸内細菌が毒性を増強させてしまうと、慢性腸炎が起きている。従って、生体側の殺菌能に欠損する因子をみつけて、それを補強する作業が必要である。あるいは、腸内細菌の毒性の実態をみつけて、生体側が、排除することをめざさなければならない。
 
生体側の易感染性の原因として、NOD2の遺伝子異常を紹介しました。しかし、これはヨーロッパ系アメリカ人では、因子としてあるものの、アフリカ系アメリカ人では、関連が少なく、日本人、アジア人では、関連がみられないそうです。
 
ATG16L1, Xpb1、IRGMなどのその他の遺伝子異常も、慢性腸炎の原因候補としてあがっています。いずれにしろ、腸内細菌のコントロールがうまくできないという問題を抱えると、慢性腸炎が起きてくるのでしょう。
 
さまざまな防御能のわずかな低下から、次第に腸内のDisbiosisが進行性になってしまうようです。自然に備わる抗菌ペプチドのデフェンシン蛋白の働きの低下も、大分、前から指摘されています。また、病原体を検出するための蛋白Cタイプレクチンの働きの異常の指摘もあります。
 
又、生体側が作るIgA抗体も、腸の均衡状態を保つために大事な要素です。IgAは分泌型の抗体で、腸管粘液にも多量に含まれています。腸内菌が、IgA産生を促します。IgA産生を効率よく促す細菌は、バクテロイデス、一方、あまり得意でないのは乳酸菌類です。
 
雑多な腸内細菌にあふれる腸管は、多数多様であることが必要で、その結果、究極の均衡状態を保てているらしいのです。ある種類の菌は、腸管の免疫を刺激し、別の菌は免疫反応を抑え込むと言った具合に、菌同志でせめぎ合っている状態のようです。そのため、腸内バランスに関与する必須因子量の一角が崩れると、病気の発症につながるようです。
 
その他にも、AIEC菌は、いろいろな戦略を持っています。菌体の表面に小液胞をもっていて、AIEC菌が腸管上皮内に侵入すると、菌の小液胞は、上皮細胞のER((小胞体)ストレスを起こさせます。すると、上皮細胞の抵抗力が低下して、AIEC菌が上皮細胞内に入り込み、増殖しやすくなります。頼みのマクロファージも、殺菌力を低下させています。
 
腸管上皮細胞表面のCEACEM6蛋白は、AIEC菌に足場を提供してしまうのですが、ストレスをうけた腸管上皮細胞は、細胞表面に、ますます、腸内細菌のための足場を提供してしまうようです。
腸には膨大な数のリンパ組織があり、これはパイエルパッチと呼ばれますが、この部分の表面の上皮細胞は扁平化していて、すぐ下には多数のリンパ球が集まり、リンパろ胞を形成しています。AIEC菌は、長い糸状突起をもっていて、パイエルパッチ(リンパ節)からはずれないように接着することができます。そして、侵入のチャンスをうかがいます。
 
NOD2欠損のマウスをつくると、このマウスでは、M細胞が増えます。M細胞の下には、多数のリンパ球が寄りあっていますので、これらは混乱状態に陥ります。本来、腸管内に侵入する危険物を見分けるための構造であるパイエルバッチですが、一部の腸内細菌の増殖の侵入の入り口を与えてしまうようです。
 
CEACEM6蛋白をつくる遺伝子をつぶしたマウスでは、腸炎が起きてきます。

このように、遺伝子をつぶした動物モデルの作成をしたり、菌の特性を根掘り葉掘り調べ、患者さんの協力をあおいだ生検材料を密に調べる努力を続けて、クローン病や慢性腸炎の病因究明の努力が続けられています。
 
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック