健康成人で新型インフルエンザ感染症が重症化した原因を追及した成績(ネーチャーメディシン)

2009年、世界的に新型インフルエンザH1N1(パンデミックインフルエンザ)がはやりました。冬以外のインフルエンザの流行がおき、かかりつけの医師にかかれないという医療現場の混乱などがあり、母親など多くの人がつらい経験をしました。
 
実は、インフルエンザと人間は、もう何十万年も前からつきあっていて、究極の持ちつ持たれつの関係になっています。すわなち、ほとんどの人では、自然に治ります。しかし、ここにも人の免疫の多様性がかかわってきます。すなわち、ごく一部の人では、とても重症化してしまうという事実です。その原因は、感染症では時に起きることですが、なんからの遺伝子背景にあると、免疫の暴走が起きてしまうのです。残念ながら、その機序はまだ完全には解明されていません。
 
ネーチャーメディシン2011年2月に、健康成人で新型インフルエンザ感染症が重症化した人において、重症化の原因を追及した成績を紹介します。Nature Medicine 2011;17;196
 
論文では、重症者や死亡者は、過剰な免疫反応が起きたというエビデンスをいくつかあげています。抗原(インフルエンザウイルス)と抗体(人が感染防御を目的につくる物質)の結合物が、重症化に関与したと結論しています。
 
ウイルスがすごい量で増加したわけでなく、重症者や死亡者では、効率の悪い抗体ができてしまい、うまくウイルスを処理できなかったことが、過剰な炎症反応へと導きました。重症者では、リンパ球の減少が観察されました。そして、本来、酸素を取り入むはずの肺胞が働かなくなってしまいました。亡くなった人は、大気中で呼吸しながら、水におぼれた状態になってしまったのです。
 
一般的に、インフルエンザ予防にワクチンが有効で、ワクチンは、人工的に抗体を作らせるものです。しかし、実際の感染症の時には、ウイルス蛋白のさまざまな部分に対して抗体がつくられますので、つくられた抗体が、特殊な不利益な反応を起こしまうことがあります。こうした現象は、免疫の働きのよいはずの成人においてみられます。乳児や高齢者では、免疫が弱いので、免疫の暴走は起きにくいのです。水ぼうそうやおたふくが、成人で重くなるのに似ています。
 
今回は、高齢者が比較的軽症だった原因として、高齢者のウイルス中和抗体が高かったことが示されています。重症者では、IgG抗体は高かったのですが、ウイルス中和抗体は低値でした。乳児も、抗体が低値であったため、過剰な反応が起こらなかったであろうとしています。
 
ウイルス感染を治癒に向かわせるためには、さまざまな免疫因子がかかわりますので、抗体産生が少ない方が、軽症で終わる場合もあります。抗体という物質は、感染症を時に軽くし、そして、時に重くする物質です。
 
中和抗体が高値なために軽症化する場合(高齢者)、一方、中和抗体が低値なために軽症化(時に重症化もある)する場合(乳児)があり、病原体と人の間には、多様な免疫現象があります。
 
補体というのは、私たちが自然に作る体内物質ですが、補体は、殺菌(菌を溶かす)能力をもち、感染防御に働きます。今回は、肺に抗原抗体複合物が観察され、これに補体が結合する組織像がみられました。重症者や死亡者は、補体が肺で消費されてしまったため、血清中の補体は低下していました。論文の著者は、補体低下を、パンデミックインフルエンザ重症化に、抗原抗体複合物の形成が関与した根拠にしています。
 
Nature Medicine 2011;17;196
54名の入院を要したパンデミックインフルエンザ重症例で、うち23人が死亡しました。15人は、集中治療室での治療を要しました。平均年齢は39歳(17-57歳)でした。重症例と、外来で軽症だった人(乳児や高齢者)との間で、それぞれの肺の免疫状態を比較しました。
 
パンデミックインフルエンザで死亡した人の肺は、肺胞が浮腫状、肺胞膜の肥厚、出血、ハイアリン膜の形成があり、酸素をとりこむ働きの肺胞の壁が、厚くなっていて酸素を取り入れることができなくなっていました。
鼻汁中のウイルス量は、重症者で増加している所見は得られませんでした。
 
気管分泌物での、インターフェロンαは、鼻汁より低値でした。インターフェロンβは、ほとんど、上昇しませんでした。
 
サイトカインの産生は、新型インフルエンザと従来型のH1N1インフルエンザと、違いがありませんでした。
新型、従来型インフルエンザのハマグルチニン(赤血球凝集素)蛋白は、自然免疫系のTLR(トールライクレセプター)の発現を、増加させませんでした。
 
人の単球を用いて、新型、従来型およびトリ型H5インフルエンザ蛋白で刺激したところ、人の単球は、トリ型H5に対してのみサイトカインの産生が増加しましたが、新型、従来型のH1型インフルエンザは、少ないサイトカイン刺激性でした。
 
ウイルス感染の時には、増加するはずのTリンパ球(CD4+リンパ球とCD8+リンパ球と呼ばれる2種)が、死亡した人の肺では、増加しておらず、逆に減少していました。
 
乳児では、新型インフルエンザも従来型のインフルエンザに対する特異抗体価は低値でした。一方、75歳以上の高齢者と比較すると、重症者では抗体は高い傾向でしたが、抗体のウイルスに結合能は低下していました。
 
死亡者では、肺に抗原・抗体複合物が沈着しており、補体の活性化が見られました。特に補体の分解産物であるC4bが、肺胞膜に多く結合していました。
 
1957年当時の新型インフルエンザ感染で死亡した人の肺を用いて、同様の検査をおこなったところ、この場合も、肺胞膜へ、多くのC4bが沈着していたことが確認できました。
 
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