薬のリスクの考え方や価値観は、人により異なります。医師の間、患者さんの間でも異なります。

医学、薬学業界は、治療薬の薬効比較試験の結果にふりまわされてきました。特に、この10年は、その傾向が著しいです。何10年もかけて開発・販売された薬が、あっという間に問題となる薬になり下がってしまいます。ジェネリック薬の参入と、あいまって製薬メーカーは、難しい立場にたたされ続けると思います。
 
2002年の出来事である、女性ホルモン問題は、大分、話題が古くなりました。何度か、このブログで紹介していますが、リスクとベネフィットを比べて、薬を天秤にかけることが重要です。

女性ホルモン補充療法は、発がんと、血液凝固能の亢進が、大事な副作用と思われます。特に、乳がんは病気の数が多いので、より重大なわけです。

実際に、女性ホルモン補充療法をしている女性は、主治医が気にしなくてよいと言われて、続けている人が多いかと思います。
治療薬を天秤にかける時、主治医と患者は、相互の考えを理解しあう必要があります。こうしたリスクの考え方や価値観は、人により異なるからです。
 
たとえば、女性ホルモン補充療法と乳がんの発症についてですが、5年間の比較試験の継続中に、乳がんの新たな診断患者は、1万人あたり、女性ホルモン補充療法は38名、偽薬群は、30名でした。この、8名の差が大きいと思うか?無視できる数か考えるか?は、かなり個人的ばらつきがあると思います。そのため、医師と患者の意見交換が必要なわけです。
 
もし、女性ホルモン補充療法により、不快な症状が大きく減ったと感じている人や、7人の差は無視できると感じている人は、女性ホルモン補充療法は続けるという選択をするでしょう。しかし、いくら検診を心がけても、乳がんの早期発見や早期治療ができるとは限らず、将来的に、後悔するかもしれないと思えば、治療を止めたいと考える人もいるでしょう。逆に、もし、医師が、とても有用だと考えれば、有効性を熱心に患者に説明しようとするでしょう。
 
女性ホルモン補充療法は、産婦人科の医師のとって、有力な治療手段ですが、精神科の医師では、女性のうつなどに使うことは、考わないようです。診療科の違いにより、同じ病気でも、考え方や、治療効果の評価は、大分異なります。
 
薬の効果を、天秤にかけるということが、日本人は慣れていないようです。長い間、医師の考えにおまかせの人が多かったと思います。また、副作用の情報がでると、薬によって病気にさせられたと憤慨する人も多いのではないでしょうか?疫学データは、ひとりひとりを論じることはできないわけです。ブログなどを、読んでいると、薬のせいで病気になり、許せないとする書き込みもあります。
 
現在も、多くの薬が、効果と副作用のまな板の鯉状態にあります。
女性の中には、骨粗鬆症の薬ビスフォネートが、骨折をしないですむ薬と信じている人もいるようですが、どの程度に予防できるのかまで、興味を示す人は少ないです。骨折の機会などは、その人の生活環境に関連します。将来的な骨折を完全に予防することはできません。

女性ホルモン療法は、将来、腰が曲がらないですむなどと説明される場合もあるようですが、この治療は、骨折しやすい年齢まで使用しない方が良いのです。前回、示したように骨を強くする作用には、骨の強度が弱まる量を3分のⅠ位まで、少なくする程度です。
骨粗鬆症の薬のビスフォネートと、下顎骨壊死との関連も有名です。
骨粗鬆症の薬、ビスホスホネートを服用している女性の食道ガンは、2倍に増加することが、疫学研究から示されました。

私たちは、体が、どのような物質で動いているのかを、完全に把握しているわけではないのです。
 
その他の薬では、ピオグリタゾン(アクトス)という、糖尿病の薬が、膀胱がんとの関連で、試練の中にあります。厚労省から、各医機関に文書として、注意の添付文書が廻ってきました。これも、薬剤の疫学研究の結果、がんとの関連がでてきてしまったものです。もともと、動物実験などでも、膀胱がんと軽度に関連することが指摘されていたようです。発売後も、使用者の観察が継続され、昨年、米国で、10年間で19万人以上の糖尿病患者さんのデータベースを背景に、平均2年の観察期間で、膀胱がんが軽度、増加するデータがでました。フランスでも、類似のデータがでました。

KPNC研究によると、米国の2型糖尿病患者の場合、ピオグリタゾンを服用していない患者さんでは、10,000人あたり年間6.9人が膀胱癌を発症し、ピオグリタゾンを服用している患者さんでは、10,000人あたり年間8.2人が膀胱癌を発症したとされています)。 http://www.takedamed.com/content/medicine/newsdoc/110624act.pdf
 
そして、メーカーは、患者向けに、がんが発症するリスクが軽度だが、しかし、有意(疫学的に根拠ある数値)に増えたことを示しましたが、個々の例では、それが薬と関連あると証明することは、難しいと、説明を加えています。つまり、関連が証明できなくても、多人数に投与された結果、やっと検討可能な数値が出てきて、がん増加が有意に多くなると割り出されてくるのです。それは、とても大事な意味を持っています。
 
今後も、こうした報告は続くでしょう。確実に治療効果がある薬は、副作用の網にかかってしまうリスクが高いです。
そうした時、メーカーを悪意を持って非難したり、理不尽な理論が持ち上がります。このあたりも、日本人は、議論に慣れないところがあります。騒ぐためにとりあげる週刊誌があっても、正当な議論があれば、人々が飛びつきません。がさネタがはやるには、議論不足の社会不安があるからです。
 
安全な薬を求めようとすれば、効かない薬だけが残るようになります。
おまじないに近い薬だけが、残ったら。治療薬そのものの意味がなくなります。
誰もが、主体的に比較データの数値にアクセスして、副作用を天秤にかけ、自分の価値観にあった薬の選択のできる医療へと、進んでほしいですね。
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