薬をうまく使うには、病気の解明が進むことです。名人がいるわけではありません。

前回は、薬のリスク・ベネフィトを、天秤にかけて、その治療をするか、しないかを選択するという話をしました。
 
それでは、病気の治療に使う薬が、病気を治す方向、悪化させる方向の両方を持っている時には、さらに、使用を継続するかの判断は難しくなります。多かれ、少なかれ、多くの治療薬はそうした側面を持ちます。薬は、うまく使わなければならないということにつきるのですが、薬の効き方には個人差があり、将来的な治療効果を予想するのは、難しいわけです。
 
気管支拡張剤は、喘息などで、縮んだ気管支を開かせて、呼吸困難をとる薬です。1960年には、気管支を開かせる拡張効果が強いべロッテクを使いすぎるために、喘息死が増えるという議論がわきあがり、因果関係について、世界中に議論がおきました。
 
現在も、気管支拡張剤をどのように使用していくかは、議論が続いています。喘息患者に、定期的に気管支拡張剤を使用すると、肺機能は良くなるものの、一部の人では、薬をやめると喘息が悪化してしまうのです。気管支拡張剤を定期的に使用していると、喘息による死亡率は小数ですが、統計学的有意を持って増えます。特に、黒人の喘息では、はっきりと喘息死が増加するとするデータが、示されています。
 
気管支拡張剤を吸入すると、気管支が広がりますので、呼吸困難は取れます。気管支を狭くしている筋肉の収縮を抑えるからです。予防的に薬を使い、気管支を広げておくと、患者本人も楽ですし、睡眠や日常活動に良い効果がでます。しかし、気管支が薬に常時暴露されることにより、気管支の形や反応性が変化や、心臓への影響などが懸念されるので、医師は、できれば、気管支拡張薬を減らしていきたいわけです。
 
喘息発症の原因の本体はどこにあるのか?が、いまだ、未定です。喘息は、気管支の構造が、次第に変化していく病気(医学的には、気管支平滑筋の増大、粘膜下組織の線維化、粘液腺の増加)です。 気管支の内側の壁に、筋肉の塊が増えて、粘液を作る細胞が増え(痰が増え)、内腔はせまくなり、空気の流れが悪くなります。
 
気管支の構造が変化することを、リモデリングと言います。リモデリングは、喘息病態の基本とされ、治療薬で改善させることが難しいです。ではなぜ、進行してしまうのでしょうか?そこに、気道の炎症があるからとされています。
 
それでは、気道の炎症はなぜ、起きてくるのでしょうか?この問題は、まだ、解決していないのですが、重要因子を一つ、示します。普段はかからない力が、反復して体の一部に加わると、そこが体のどこであっても、炎症と呼ばれる変化が起きてきます。私たちの体は、物理的(圧力、熱など)な刺激が加わると、反応し、刺激が強ければ傷つきます。やけど、外傷などを、考えるとわかりやすいかと、思います。
 
激しい運動の後に、筋肉が痛くなる、大声を出した後には、声が枯れる、などの反応も同様です。気管支が縮まれば、広範に伸び縮みする部分が生じ、気管支に傷を与えることになるのです。傷を修復するために、血管、神経、がふえてきます。反復性に、物理的な圧力が気管支に加わることにより、ますます縮みやすい気管支に変化していくのです。
 
1960年には、喘息の患者には、定期的に気管支拡張剤を用いて、気管支をひろげておくという治療がありました。喘息患者が多い、ニュージーランド、オーストラリアで、はやっていました、その結果、最重症者の一部に、喘息死が増えてしまったのです。今は、気管支拡張剤が必要な重症の喘息者では、かならず吸入ステロイドを併用するようになっているのです。
 
2011年5月のニューイングランドジャーナルメディシンに載った論文を紹介します。
軽症のアトピー型喘息の患者を、以下の4群に分けました。それぞれの群の人たちに、6日の間に、4回、以下の薬剤を吸入させて、気管支を収縮させ、気管支組織の反応をみました。
① 喘息の原因となる抗原を吸入させる
② メサコリン(気管支を縮ませる薬剤)
③ 生理食塩水(コントロール)
④ あらかじめ気管支拡張剤(β刺激剤)を投与しておいてから、メサコリンを吸入させる
 
以上の薬剤を用いて、喘息発作を誘発し、それぞれの群の気管支に起きた変化を調べました。抗原吸入は、自然の喘息発作に近い病態を人工的におこさせるもの、メサコリンの吸入は、気管支を縮ませる薬剤を用いて、薬剤性に喘息発作を起こさせるものです。
 
結果は、抗原、およびメサコリンは、同程度に気管支を収縮させました(気管支が縮む)。しかし、抗原吸入、メサコリン吸入の、両者で、気管支の変化は、若干異なりました。抗原吸入では、好酸球などの白血球の増加がおこり、メサコリンの吸入では、起きませんでした。
 
しかし、両者とも、気管支のリモデリングにつながる変化は、同程度におきました。両者とも、気管支上皮細胞の増殖、粘膜下組織の線維化、粘液腺の増加などがありました。リモデリングに関係するTGF-βは、両者とも増加しました。β刺激剤をあらかじめ投与してから、メサコリンを吸入した場合には、リモデリングにつながる変化はおきませんでした。
 
この事実から、喘息が発症する原因のひとつに、気管支に加わる物理的な力というものが、リモデリングを起こす重要な要素となる可能性が証明されました。そして、気管支拡張剤により気管支収縮を抑え込むことが、リモデリングを予防する効果があり、その結果、気管支拡張剤は、治療として使うことが、気管支の傷を減らし、有用であることを示唆しました。
 
気管支が引っ張られて傷がつくことにより、ますます気管支が縮みやすくなる変化は、喘息の人に起き着てくる特有の現象なのか?健康人は、どうなのか?は、まだ、回答がありません。薬などの手段を用いて、反復性に、健康人の気管支を、人工的に縮ませていくと、喘息発作が起きる気管支に変化してしまうのかどうかは、現時点ではわかりません。
 
喘息の発症解明も治療も未解明なまま、未だ、人類は多くの課題をかかえています。治療の難しい問題を解決していくには、喘息に関係する人たちの協力が、今後も重要です。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

トラックバック