ピルと女性の健康 長期追跡研究における数値のばらつきから、読めるもの

1968年に、英国において、開業医(GP)たちが協力して、25-35歳の、当初2万3千人づつの女性を集めて、ピル使用者とピル未使用者別に、健康追跡調査を開始しました。
 
この長期にわたる開業医(GP)による疫学研究は、Royal College of General Practitioners' oral contraception study(ロイアルコレッジ開業医によるピル研究)と呼ばれています。そして、随時のデータに基づき、ピルの使用と、女性の健康や死亡原因との関連についての成績を発表してきました。
 
大変、息の長い研究ですが、時間がたつほど、通院する女性、診療する医師側の条件が複雑になっていきます。
 
一旦、1996年に、それまでのデータがまとめられましたが、その集計までに開業医の四分の1が辞めたり、女性が通わなくなってしまったりなどの紆余曲折な変遷がおきています。
 
それでも、追跡研究は、熱心に続けられ、データ解析が本日まで続いています。

これらのデータを見ながら、女性とピルの関係を見ていきたいと思います。
 
ピルも当初にくらべ、ホルモン量が減少し、製品も改良がされていますので、こうした影響はデータ解析を難しくするものと思います。
 
今回は、2010年のブリティシュメディカルジャーナルに掲載された論文のさわりを紹介します。
論文は、ネットで無料配信となっています。
BMJ 2010;340:c927
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20223876
 
英国の開業医によるピル研究39年間の追跡調査です。
 
ピル使用していた女性2万3千人と、使用していない女性2万3千人を募集して、観察対象としました。それぞれの群で、その後の死亡状況を比較検討しています。
 
あらゆる原因による死亡率と、がんによる死亡率が、ピルの使用の有無と、どのように関係するのか検討しています。ピル使わない人17306人、ピル使った人28806人の女性が参加しています。
 
39年年間の観察後では、
ピル使わない人では、生存者15559人と死亡者1747人となり、
一方、ピル使った人では、生存者25942人と死亡者2864人となりました。
 
年間の参加人数に、それぞれの女性の追跡年数をかけた値は、ピル使用者819 175人、ピル未使用者378006人でした。
 
このピル群、非ピル群の両群の年齢構成は異なっており、年齢差には、有意差があります。

年齢構成がどの位異なるかについては、30歳未満の占める割合が、
ピル使わない群では51.6% 、
ピル使った群は、63.6%となっています。この両群は、明らかに年齢に違いがあるのです。つまりピルを使っている群の方が、若い人が多いのです。
年齢の分布の違いは、有意差が<0.001であります。
 
ピルを使っている人は、若い人が多く、若い人は、その後、30年以上たっても年齢差は変わりません。若い人の多いピル群は、以後の死亡率を比較した場合は、有利と思います。つまり、ピルを使った群の方が、死なないというデータが、予め予想できます。

このピル群、非ピル群における30歳以後の年齢層は、
30-39歳 ピル使わない人6605 (38.2%) 、ピル使った人8712 (30.2%)
40-49 歳 ピル使わない人1747 (10.1%)、ピル使った人1748 (6.1%)
50-59 歳 ピル使わない人32 (0.2%)、 ピル使った人23 (0.1%)
 
結果は、すべての原因による死亡は、非ピル群を1とすると、ピル群は、0.98という数値です。
 
がん死亡は、非ピル群を1とすると、ピル群は0.88です。
 
しかし、心血管系による死亡は、非ピル群を1とすると、ピル群は、1.37と増加しています。
 
しかし45歳以下の人のみで、両群を比較すると、ピル群は、非ピル群より死亡が多くなっています。1より多い数値になったということは、非ピル群にくらべて、ピル群が、病気が多くなることを示します。
 
45歳以下の人に限定すると、以下の結果です。

すべての原因による死亡は、非ピル群を1とすると、
内服中止後 5年未満のピル群は、1.08倍、
内服中止後 5-9年のピル群は、1.76倍、
内服中止後 10年以上のピル群は、0.97倍となっています。
 
すべてのがんによる死亡は、非ピル群を1とすると、
内服中止後5年未満のピル群は、0.82倍、
内服中止後5-9年のピル群は、1.91倍、
内服中止後10年以上のピル群は、0.39倍となっています。
 
心血管系の死亡は、非ピル群を1とすると、
内服中止後5年未満のピル群は、2.04倍、
内服中止後5-9年のピル群は、3.8倍、
内服中止後10年以上のピル群は、21.2倍となっています。
 
これらの数値は、ばらついており、長期観察データの集計の難しさかもしれません。
 
尚、非ピル群とピル群は、喫煙率でも有意差があり、ピル群でタバコを吸う人が増えています。
 
又、長期観察の間に、他人から受けた暴力による死亡は、ピル群は、非ピル群の約1.4倍に増えており、自殺者も、ピル群で多くなっています。
 
つまり、社会的背景の違いや、年齢構成が明らかに異なる集団における比較です。こうした比較では、女性の生涯における病気のリスクを、ピル群、非ピル群で比較するのは、問題があると思われます。
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