発展途上国では、肺炎球菌により、5歳以下の子どもの100万人が命を失います。今でも、肺炎球菌は、人類の最大の敵と言ってよいでしょう。
肺炎球菌による髄膜炎は、死亡が7~10%、後遺症率は30~40%と、ヒブによる髄膜炎に比べても、死亡と後遺症のリスクが高いのです。
日本では、毎年約200人の子どもが肺炎球菌による髄膜炎にかかり、うち3分の1くらいが、命を落とし、重い障害が残っています。
肺炎球菌には、90種類以上の型があり、型が合うワクチンであれば、その型の菌に予防効果が高いです。逆に、型が合わないと予防効果が低下します。
肺炎球菌の中でも、重い病気をひき起こすことの多い、7つの型の肺炎球菌が、ワクチンに含まれています。プレべナーで、カバーできる型は、4、6B、9V、14、18C、19F及び23Fです。
日本では、2010年2月に、欧米に遅れること10年でプレベナーが発売されました。日本のこどもたちがかかる重い肺炎球菌感染症の70~80%は、この7つの型の肺炎球菌が原因であることがわかっています。 しかし、ワクチンが広まると、次にはワクチンに含まれていない型の肺炎球菌による病気が増えてしまいます。ですから、できるだけ多くの型が入ったワクチンが望ましいのです。
日本では、生後2か月から9歳以下、特に4歳代までに、なるべくプレベナーを打つべきとのメッセージが出ています。
そして、65歳過ぎたら、成人用ワクチンニューモバックスを打ちましょうとなっています。
さて、新聞記事では、時に、成人用ワクチンニューモバックスを間違って小児にうってしまったとの報道をみかけます。
これはミスには違いないのですが、どこが違うのだろうか?と疑問を持った方はいませんか?
プレべナーは小児用、ニューモバックスは成人(特に65歳以上)用だから との答えがかえってくるかもしれません。
日本のネットでは、次のように書かれています。
高齢者の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックスNP)は、この小児用肺炎球菌ワクチン(プレベナー:PCV)とは全く違うものです。現在のところ、10歳以上の人にプレベナーの接種は認められていません。
それでは、その違いは何なのでしょうか? 今回は、これに関する話しをします。
いま一つ先の知識に、興味を持っていきましょう。
実は、外国では、ニューモバックスは、子供にも使うことが研究されています。ニューモバックスは、プレべナーより安価なのです。
この二つのワクチンの違いは、肺炎球菌から抽出した成分の処理が異なります。ニューボバックスは、多糖体といわれる肺炎球菌由来の炭水化物の成分がワクチンの本体です。
プレべナーは、肺炎球菌由来の糖に蛋白質成分を結合させたもので、作るのにコストがかかります。蛋白質は、人の免疫に作用する力がつよく、赤ちゃんでも免疫反応を起こさせることができます。
一方、成人は、すでに何度も肺炎球菌を保菌して、免疫をもっています。健康人の鼻汁などにも、多様な肺炎球菌がいます。成人は、肺炎球菌とのお付き合いが長く、ワクチンに蛋白質が入らずとも、菌の炭水化物だけでも反応できるのです。老人に、ニューモバックスを打つと、多くの人が腕がかなり腫れる理由は、成人は、肺炎球菌に対して、ワクチン前に、すでに多様な免疫反応を持っているからです。
ニューモバックスを子供に使うことの研究が、発展途上国で、現在治験が行われています。最初に、プレべナーを打ってから、この23価の成人用ワクチン(ニューモバックス)につなげることにより、幅の広い良好なワクチン効果がえられるとの結果が得られています。
The Journal of Allergy and Clinical Immunology
Volume 129, Issue 3 , Pages 794-800. 2012
成人で使われるニューモバックスは、23種類の型をカバーしますが、これが本当に子供の免疫に、効果が低いかを検討しました。2才未満の子供たちで検討しました。今回は、健康な12ヵ月のフィジーの子どもたちを対象としました。
目的 生後12ヵ月の乳児において、8種の血清型が含まれるワクチンを打ち、引き続き23種の型が含まれるワクチン(ニューモバックス)を打って、肺炎球菌に対するワクチン効果が出るかどうかを研究しました。免疫効果は、オプソニン化能力と、特異IgG抗体の産生でみました。
結果
乳児の71パーセントは、8種の型のうちの4種の型に対して強い免疫効果が確認できました。そして、30%の子どもは、ニューモバックス注射後の数週間後に、23種のうちの10種の型にIgG抗体を生産しました。 欧米で流行している型の肺炎球菌には、免疫反応が起きましたが、発展途上国で流行している型については、子どもたちの免疫反応は低かったです。
結論
この論文は、12ヵ月の幼児において、成人用ニューモバックスを打つと、乳児でも抗体反応ができるかを調べた最初の研究です。ニューモバックスは、先進国で病気を引き起こしている型の肺炎球菌には、予防効果が出ました。
しかし、発展途上国で流行している型には、十分な免疫効果はありませんでした。それでも、成人用ニューモバックスは乳幼児でも、若干の効果効果は期待できるかもしれません、発展途上国の乳幼児で、ニューモバックスがどの位に有用であるかは、今後の検討が必要です。
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