性ホルモンと脳 No.2

前回の続きです。
ここからは、最初、動物で証明された事実なので、メス、オスで書きます。メスは、月経周期で変化する神経細胞の再構築のサイクルを持つ。一方、オスにはこうした機能はない。メスでは、エストロゲンが高い時期には、脳内細胞が増加し、逆にエストロゲンが低下すると、細胞は減少する。エストロゲンは、痙攣等で障害をうけた神経細胞を回復させる能力なども持つ。ラットでは、ホルモン投与により、シナップス構造が密になる。
 
性ホルモン作用は、受容体が性ホルモンと結合することで、発揮される。エストロゲンは、α、β受容体と呼ばれる核内たんぱく質に結合して、ホルモン作用が発揮される。α、β受容体蛋白は、核内に存在しているが、実は、核外であるシナップス部分などにも、受容体たんぱく質は存在して、シナプス伝達に影響を及ぼす。つまり、神経伝達にも、性ホルモンが影響を及ぼす。これらの受容体の分布は、動物ごと、臓器ごとに異なり、その機能も異なる。ある時は、促進的に、ある時は妨害的に(抑制的に)に、ホルモンは、神経細胞からの指令に影響を伝える。
 
エストロゲンの脳内での働きは、多彩であり、まだ全貌が解明されたわけではない。脳内の性ホルモン受容体が発見された当初は、エストロゲンは、神経細胞を活性化させる物質と考えられたが、今は、むしろ、鎮静的に作用する物質と考えられ、抗けいれん作用などが指摘されている。例えば、アミノ酸の1種であるカイニン酸は、けいれん誘発因子であり、この物質でけいれんをおこさせた動物に、エストロゲンを投与すると、細胞の興奮を収める作用を持つ。性ホルモンの作用に関する知識が、時と共に変遷してきたのは、脳研究の難しさを反映するものだろう。
 
エストロゲンは、周りの環境が変われば、作用が変わるが、こうした知見の多くは、動物モデルで実証された結果で、卵巣摘出動物、エストロゲン投与マウスなどの観察から、導き出された科学的エビデンスである。実際の人間では、その作用の解析は、今だに難しく、今後も、脳機能への性ホルモンの働きは、研究者間での議論が続くことになる。
 
エストロゲンは当初、細胞を興奮させる作用をもち、かつ神経細胞にも保護的に働くと評価された。そのため、ホルモン投与は、女性たちの脳を活性化し、老化予防にもつながると期待された。限局的な成績では、アルツハイマー病への治療効果もあった。動物のモデルでも、エストロゲンは脳の実質を増やす効果が期待できた。エストロゲンは、閉経後の女性の“ぼけ”を防ぐ物質との期待がもたれ、世界でホルモン補充療法が行われてきた。しかし、2002年、WHIが、ホルモン投与郡と偽薬投与郡との対象比較試験において、当初のホルモン治療効果への期待は裏切られた。乳がんや血栓症の増加し、脳に対する効果も、散々だった。ホルモン投与群で、認知能の低下が起きてしまった。
 
エストロゲンという同じ物質であっても、それを投与した人の年齢などの脳内環境が異なれば、当初、期待されたエストロゲンの薬理作用は発揮されなかったのである、受容体の種類や数の違い、共存する他の脳内物質、さらに未知なる因子の影響により、エストロゲンは全く別の作用効果を持つことを人々に知らしめた。性ホルモンは、条件の違いにより、活性化に働くだけでなく、逆に細胞障害性にも働く。人の体に作用する体内物質の複雑な作用を知らずして、短期的な治療成果を求めてはいけないという教訓であった。
 
再度、図1,2をだします。左が図1です。右が図2です。細胞同士が連絡しあって、私たちの体を守っています。
イメージ 1
イメージ 2
ストレスを克服する海馬と、その周りの歯状回という脳の部分にご注目ください。
 

 
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コメント

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hitorigotox
確かに世界中の人の努力の成果ですね。これはすごいことですね。世界中の研究者の人を助けたいという思いが、すごい原動力になっているんでしょうね。

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学とみ子
コメントありがとうございます。生命現象も、病気も、未だ、不明な事が多いです。私たちは、結果として生き残った生命体を対象に学びます。目的は、人の病気を治すためです。専門家でなくても、多くの人が、病気を理解することが容易になりました。生命現象の全体から見ると、微々たる進歩かもしれませんが、世界中の人の努力の成果です。すごいことだと思います。

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hitorigotox
医療においては全くの素人ですが、医療をメカニズムとして還元的に考えていくのが主流かと思います。ある薬がなぜ効くのかを、できるだけシステムとして説明しようとしていますが、そんな説明は実際スカスカでわかってないことが大半ではないのではないかと思います。全身麻酔がなぜ効くのかの説明も解明されていなければ、プラシーボ効果が何なのかもわかってはいない。

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hitorigotox
おじゃまします。生命というシステムはどれだけ複雑なのでしょうかね。ただ茫然とするしかない感じがします。エストロゲンも単なる分子ですが、細胞にとっては、ある種の言葉みたいなものになっている。同じエストロゲンという分子でも純粋に物質としてみた場合と、生命にとって、という観点で見た場合は全く違ったものになると思います。このギャップは一体何なのでしょう!?現在のこの手の知識はあくまで経験的・臨床的でものであり、還元的な説明は一切できていないと思います。この溝はいつか埋まるときがくるのでしょうか??
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