脳とホルモンを知りたい 海馬とエストロゲンβ受容体

私たちは、一つのホルモン物質が、あらゆる臓器や細胞に作用することを知っています。そこが、世界的で広く、ホルモンは怖いと思われている理由でしょう。今回は、エストロゲンが、男女共に、脳のいろいろなところに作用している事を紹介します。女性ホルモンの代表であるエストロゲンですが、生殖に作用することはもちろんのこと、実は、男女共に、体の多くの部位に作用する物質でもあるのです。今回は、題して、脳内海馬におけるエストロゲンとその受容体、特にβ受容体、に関する知見です。海馬は、動物でも人でも、感情やストレスに対抗する能力を沸かせてくれる場所ですよね。ここが健康であると、私たちの知的行動の活力が高まり、ハッピーになるのです。
 
今回の知識のソースは、NIHPublicAccess雑誌名Sterids2008著者AAWarf&CA Fryeからです。

脳の科学は、ラットやマウスなどのげっ歯類で研究成果が多い。ラットでは、エストロゲンが高い時期は、迷路機能や認知能が向上し、恐怖に対抗する能力がたかまる、一方、エストロゲンが低い時期には、この能力が落ちる。これは、海馬における、エストロゲン受容体が関係すると考えられる。古典的には、エストロゲンは、α、βという核内の受容体が作用して、ホルモン効果が発揮されるが、海馬におけるエストロゲン受容体は、もっと即座に反応する別のタイプのものである。このタイプの受容体に、エストロゲンが結合すると、細胞の核に入らずに、細胞の膜ですばやく反応する。脳の海馬では、β受容体の発現分布が多く、その働きが大きい。
 
エストロゲンのα、β受容体は元々、男女共、体中の多くの臓器の細胞に発現しているが、それぞれの臓器や組織ごと、α、β受容体の種類と分布が異なる。αとβの受容体遺伝子は、97%が一致していて、リガンド結合能(リガンドは受容体に結合する物質の事)は、60%が共通である。骨ではα受容体が主体で、骨髄ではβである。肺、膀胱、腸では、β受容体が主体であり、子宮は予想通り、αである。増殖がさかんな組織は、α受容体が活躍しているようである。受容体の分布により、エストロゲンは全く異なる働きをすることになる。脳では、部位によりα、β受容体の分布が異なり、視床や下垂体はα受容体が主体で、大脳皮質、海馬、黒質、小脳は、β受容体が主体であるそうだ。
 
エストロゲンは海馬機能を高めて、認知能、ストレス対抗能を高める作用がある。これには、β受容体の役割が大きいようで、動物モデルを用いて、受容体の遺伝子をつぶしたり、逆に受容体を補ったり、エストロゲンを投与したりして、エストロゲンの作用を確かめた。こうした遺伝子改変動物モデルでの研究結果により、脳の認知、抗ストレスには、β受容体の役割が重要であることがわかってきた。
遺伝子改変モデルを用い、β受容体遺伝子をつぶすと、認知能力の機能低下が起こることを確かめることができた。その後、再度、β受容体を復活させる作業をした実験の結果により、β受容体の働きによる認知能の回復を確認することができた。それから、次にβ受容体を刺激する物質で、海馬機能を高めることができるかを調べた。エストロゲン受容体調節物質(selective estrogen receptor modulator:SERM)のうち、特に海馬に発現の多いβ受容体を刺激する物質として植物性エストロゲン(ゲニステイン、ダイゼインと呼ばれるイソブラボン)を用いて調べた。植物性エストロゲンを飼料にまぜて食べさせたメス、オスラットでは、認知能が改善した。
 
話を元にもどしますが、受容体作用を操作することにより、脳内のエストロゲンの作用をコントロールすることができる可能性があります。人の対照研究で、ホルモン補充療法(HRT)は、能の認知能を改善させることが証明できませんでした。今の形のエストロゲンでは、脳機能の改善効果は持たないらしいことがわかりました。しかし、今後、研究が進むことにより、エストロゲン受容体作用のうち、脳の働きに都合の良い作用だけを残した薬剤の開発は期待できるかもしれません。
 
脳のα、β受容体についての知識が進んだのは確かですが、それを治療薬として使用するようになるまでには、まだ、解決しなければならないことが多いようです。遺伝子をノックアウトした動物を使っての研究成果が発展したとしても、どの時点で、人の治療に応用可能となるまで、その成果を持ちこめるのか?
 
現時点では、毎日、SERMを大量にとると、他の影響についてはどうか?などが気になります。ちなみに、厚労省の食品安全委員会では、植物性エストロゲンの取り過ぎは、安全でないと警告しています。私たちが大豆などで食品として取る量であれば、植物性エストロゲンは問題がないが、それ以上にサプリや薬剤として取る場合は、30mg(アグリコン換算量)を超えないことになっているようです。
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