積極的に忘れようとする能力は、恐怖ストレスを消して生存のエネルギーを回復する防衛反応の側面とされます。

 
 
 
 
このところしばらく、100年位前に活躍した心理・精神医学の先駆者たちの話題にもどりました。

フロイドとユングの活躍後は、不幸な世界戦争の時代を経て、心理学は多くの分派を生み、百家争鳴の状況が続きました。

アドラーと言う人は、個人心理学というものを提唱し、身体的障害をかかえる人でも、障害をばねに、さらに人は強くなれる (体が変化する) 能力が、人は生まれつき備わっていることを実証しました。
 
アドラー心理学は、ナチのホロコーストを避けて、アメリカで発展しました。
人は、恐怖や不安を克服できる力を、先天の能力として備えているとする心理学研究にもつながりました。
 
平行して医学も進み、脳の病理学の解明により、人の脳の働き方がわかってきました。

外傷などで前頭葉に障害を受けると、性格が変化し、温和な性格が消え、凶暴となる人が実際にいることがわかりました。人格形成に、前頭葉は大事な部位であることが示されました。
 
脳の運動野が明らかになり、特定の脳の部分を電気刺激すると、手や口が動いたりすることを知りました。てんかんなどの手術経験を積み重ねながら、人々は、脳の特定の場所の病変が、特有の症状を起こしてくることに気づき始めました。脳が体を動かしたり、刺激を感じたりするためには、それぞれに分担する脳の場所があることを知りました。

しかし、人の脳の機能は、依然として、謎につつまれたものであり、人の意識、自我などは、どこから生まれるのかについて、人々は激しい議論を繰り返しました。
 
人の考えが行動に現れる前には、脳の中で考えがまとめられなければなりません。脳内作業として考えを統合する過程がわかりませんでした。統合のための場所やしくみがわかりませんでした。

脳の中には、劇場があって、それを見る小人がいて、全体の考えをまとめているとか、人々はさまざまに思索しました。
 
人の脳の機能は、心理学や哲学でも引き続き、議論されましたが、心理学の手法では実証することが難しく、さまざまな学派による論争が続きました。
 
そうした中で、脳科学は進歩をつづけ、神経細胞の起源に戻って、その働きが解明されるようになりました。その結果、わかったことは、脳の神経細胞は、変わり得るように作られていることでした。つまり、「脳は可塑性がある」という、脳科学の原則が生まれました。これは、脳は、条件によって、構造や機能を変えていくことができるが、ある条件以上では戻すことが困難になることを示す言葉です。
 
神経細胞のニューロン突起の数は、何十万にも及びますが、突起を出たり消したりして、神経細胞の働きを支えながら、方向性を変化させていきます。例えば、恐怖を作り出していた細胞(集合体)が、やがて恐怖を抑える細胞集合体へと、働きを変化させていくことが可能です。
 
医学は、証拠をもって、脳の可塑性を示しました。人や動物を使って、恐怖を体験させ、その時、生体にどのような変化が起きるかなど、実証的な脳研究が進みました。
 
動物を用いた恐怖実験も行われました。動物を泳がせたり、足に電気を与えておどしたりする方法以外にも、脳の一部に電気刺激を与えて、動物に起きる行動変化を調べます。
 
科学として実証可能な手段の一環として、CT解析、磁気解析をすることで、脳の働きを画像化するところまできました。

現在は、fMRIなどの機械をもちいて、脳の活性化を血流の変化でとらえ、画像化できるようになりました。

こうした機器をもちいると、心理テストを行いながら、脳血流が変化する脳部位を調べることができます。
人の場合は、心理テストで不愉快な経験をさせて、その反応をfMRIなどの血流変化などで、読み取る(推定)ことができます。

視覚による不愉快な感情を与える。人の怒った顔や泣き顔を見せる。残酷な映像を見せる。
聴覚による不愉快な感情を与える。不快な音、喧嘩する声を聴かせる。
臭覚による不愉快な感情を与える。不快な臭い(腐った臭い、汗とよごれの臭い)をかがせる。
知覚による不愉快な感情を与える。不快レベルの電気でビリっとさせる。
 
こうした刺激を与えて、人の脳が恐怖を感じるしくみと、それを克服するためのしくみを解析する研究が進んでいます。
 
いろいろな種類の恐怖を、条件付けて、調べる方法もあります。
つまり、最初は、人にとって不快でない刺激を与え、それと連動して不快な刺激を与えると、人は最初の不快でない刺激を与えただけで、不快を感じます。条件付け恐怖と言います。
 
そして、条件付けされた不快な刺激は、その後の脳内で、どのように処理されていくのかなどを調べます。
 
恐怖を最初に感じるところは、脳基底部の扁桃体が中心で、そこから大脳皮質(高等脳)に電気が伝わります。
画像により血流が増えた脳部位は、そこが活性化されており、活性化の広がり方や消え方を調べていきます。
 
不快な刺激を克服するには、やはり高等脳の大脳皮質(前頭葉中心)が影響するのですが、最初に不快を感じる扁桃体自身も変化していくことが示されました。
 
ストレスに対する、この一連の変化は、動物に備わる先天能力を示します。動物に備わる恐怖を積極的に忘れようとする能力は、恐怖ストレスを消して生存のエネルギーを回復する防衛反応の側面とされます。
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