そうした治療を受けることで、ヒステリー症状は治まっていくものであることに、気づいたフロイドらはすごい!

フロイドの話題に、戻ります。
 
フロイドが、女性患者のヒステリーを催眠術を使い治療していたのは、1890年台である。
当時、メンタルに追い詰められた女性は、多彩な体の症状を起こして、治療を求めていた。
 
彼女たちのヒステリー症状とは、体が全く動かなくってしまったり、全身ふるえて意識が無くなってしまうなど、外からみてはっきりわかる症状であった。症状には、他人にわかってほしいという心理が働く。彼女たちの神経も筋肉も異常はないのに、脳が、神経や筋肉に異常運動を命じてしまうのだ。
 
「欲望と言う名の電車」の最後のシーンでも、ヒステリー状態となったブランチに、医師が腕をさしだし、暗示療法で落ち着かせている。
 
1885年に、フロイドは、パリのサルペトリエール病院にて、多くの神経病の患者を経験することができた。そこには、神経病の患者も多く入院をしていた、
 
器質的な病気である神経病は、ヒステリーとは異なり、実際に、神経細胞が消失したりして、神経や筋肉が働かなくなってしまう病気である。今では、特定疾患として、治療費補助がある神経難病がこれにあたる。
 
多くの神経病は、自己免疫により神経細胞が消えて行ってしまう病気であり、進行性で命取りである。好きでやっていた趣味ができなくなったりする。例えば、つりざおが投げられなくなるなどである。
 
ヒステリーでは、あやつり人形の糸は、しっかりつながっている。一方、神経難病は、あやつり人形の、糸は切れてしまい、糸で足や腕を引き揚げられない。
 
ヒステリーも、神経病も、体のマヒが出てくる点で、良く似ているが、マヒの原因も機序も異なる。
 
フロイドの時代には、体の病気と、心の病気の質を分けて行く(鑑別診断する)ことが、医師にとって重要な仕事であった。
 
この頃。病理学の進歩と、顕微鏡の改良によって、神経細胞が消えてしまう病気の存在が明らかになり始めてきた。
 
患者さんがかかえる体のマヒが、進行性の病気か、心の病(ヒステリー)か、を区別しようと、当時の医師たちは、必死でその答えを、追い求めたであろう。
 
フロイドは、近代神経学の祖と言われるシャルコーの元で、学んでいる。シャルコーは、1800年台後半に、神経細胞が消失していく病気をみつけている。神経病で亡くなった人から採取した脳やせき髄を材料として、染色し、顕微鏡で確かめる病理診断をした。
 
シャルコーは、現在でも残るシャルコー病の発見者であり、神経病の発見に大きな功績を残した。しかし、催眠術などを、医学教育につかっているうちに、だんだん、思いこみがつよくなっていったらしい。

医学は、この時代、大いに進んだ。ちなみに、1800年台後半は、顕微鏡を利用して、病気の元となる多くの微生物が発見された。

ロベルト・コッホは、結核菌(1882年)やコレラ菌(1883年)を発見した。コッホの使った光学顕微鏡は、600~700倍の倍率であったといわている。
 
北里柴三郎は、1889年、破傷風(はしょうふう)菌の純培養(じゅんばいよう)に成功、1894年には、ペスト菌を発見した。志賀潔は、北里柴三郎が設立した「伝染病研究所」で、赤痢菌を発見したのは、1897年だ。

フロイドは、強いストレス後に、ヒステリー発作を起こすようになってしまった患者さんを治療をしていた。今なら、PTDS(外傷後ストレス障害)に近い人もいた。
 
フロイドらは、治療の経過で、重要なことに気づいている。
 
その患者さんが、ヒステリー症状が現れた最初の瞬間を思い出し、それを再体験することにより、ヒステリー発作がおさまっていくことを、発見したのである。
 
まず、第一段階として、患者がヒステリーを起こした原因の記憶が明らかになるよう、医師が働きかける。さらに、医師は、そこに付随するいろいろな思いを、患者自身に詳しく述べさせる。そして、患者自身は、思い出しながら、当時の状況を整理し、その感情を言葉で表現する。
 
そうした治療けることで、ヒステリー症状は治まっていくものであることに、気づいたフロイドらはすごい!
 
これは、いわゆる、今でいう、脳内記憶の上書き現象に近いのかもしれないし、認知行動療法にもつながる試みであるとも言える。患者さんの脳は、PTDSの原因となっていたイベントを、のりこえられる能力を、自ら獲得していくのであろう。
 
今でいうと、カミングアウトすると、人は気持ちが楽になるというのに、近いかもしれない。
 
昔の人がかかえるがまんは、もっと、根深いものだろう。
 
当時の自由のきかないがんじがらめの社会構造では、悩みは口に出すものでなく、深く奥にしまい続けるべきであった。
 
人々の言えないくやしさ、言えないがまんによって、社会の秩序と道徳が成り立っていた。
 
そんな時代、女性は、いよいよ追い詰められて、ヒステリー状態に陥りやすかったのであろう。しかし、その治療にあたった男性の理知的な脳に助けられて、女性は病気から逃れていくことができた。
 
フロイドが治療した女性には、その後、社会的な活動で有名になった人もいる。
 
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