自閉症モデルマウスがつくられ、自閉症研究が進みました。

フロイドは、神経症で悩む患者さんを前に、精神分析という手法を編み出しました。その理論は、とても独創的かつ独断的でした。

当時、勃興してきた脳科学の進歩により、人の脳と体の関係は解明が進みましたが、その程度の知識レベルでは、実際の患者の病気を説明するには至りませんでした。フロイドは、病理学を学びましたが、当時の知識では、神経細胞の細かな働きについては、わかりませんでした。脳では、病気の症状を説明するにみあうような病変がおきていても、それを人が知るには、100年の月日が必要でした。

脳の病気は、大きく2種類に分けられ、神経疾患と言われる脳の神経細胞の変化に伴う病気と、もう一方は、いわゆる心の病気である精神疾患です。この思考錯誤の100年間、精神疾患は、神経疾患との鑑別を軸に進歩してきました。パーキンソン病、ALS、神経難病などは神経疾患であり、統合失調症、そううつ、人格異常などは、精神疾患と呼びます。単純に言えば、ある神経症状を訴える人に対し、精神科医が見るのが良いのか?あるいは、脳神経を専門とする内科医(神経内科)が見るのが良いのかの違いです。

人の病気の型は、時代と共に変化しますので、環境もふまえて病気を整理していかなければなりません。

フロイドは、裕福で家庭にしばられる婦人たちを中心に診療してきました。上流婦人たちは、言いたい事を言わずにとりつくろい、建前と立場にこだわったのでしょう。フロイドは、夢分析などで、性にまつわる心の解析を多くしています。フロイドは、人の心に性が占める要素が強いと思っていました。

極めて男性的思考と思えるのですが、なぜ、そうした思いこみが強かったのかについては、個人的見解ながら、以下のように考えました。フロイドが、夢分析として、性にまつわる話題を持ち出すと、女性は自分の見た夢として受け入れ、とりつくろう心から解放され、女性自身で、悩みを自己解決するようになったではないか?です。フロイドの患者には、その後に社会活動家になった女性などがいます。

時代が進み、米国はヨーロッパの古い権威主義を捨て、米国精神医学会が、診断基準である精神疾患診断の手引きDSM-IVを作りました。

DSM-IVは、患者さんが訴える症状に焦点をあてて診断するようになっています。権威主義者の理論と距離をおき、診療の際に聞きとる症状から、医師が病名を決めることを可能とする単純な診断基準を提唱したのです。

神経疾患と、精神疾患はどこが違うのか?を、単純化して解説すると、神経疾患は、操り人形の糸(神経)が切れてしまうような状態をイメージすると理解しやすいです。人形の足を上げようとしても、上にあげるための糸がつながっていなければ、足があがりません。一方、精神疾患は、糸はつながっています。しかし、操り人形を操作する人が、足を上げる命令を出していなのです。

例えば、愛する恋人が待っている部屋に行こうするけど、階段で足があがられなくなるのが、神経疾患です。一方、精神疾患の人は、会いたくない人の部屋への階段を上っている時、階段の途中で、足が上がらない状態です。

実際には、精神と神経の区別は難しい場合があります。この区別を極めることが、脳科学の進歩そのものだったと言えそうです。
 
従来は、神経細胞の変化を伴うのが神経疾患で、それがないのが精神疾患と、みなされてきました。しかし、神経細胞の機能が末端まで解明されてきて、精神疾患も神経細胞のレベルで、病気が論じられるようになってきました。それは、発達障害のように、従来性格的なものと考えられてきた障害も、神経細胞の働きの異常からもたらされてくるらしいことがわかってきたのです。

神経疾患は、神経細胞が消えてしまいます。その結果、歩けない、呼吸ができないということが起きてきます。神経疾患は、証拠が見えやすく、検査、解剖、顕微鏡などを用いて証拠づくりされました。

一方、統合失調症、そううつ、人格異常などの精神疾患は、病気が起きる場所や異常の証明が難しかったのです。そして現時点では、やはり、神経細胞に起因し、神経細胞から出る突起の部分に、(働きの)異常に原因があるのだろうとなっています。

突起の異常は、他の神経細胞と連絡性が異常になることを意味します。神経細胞の行動は、他の細胞からの情報で決まってきます。他から情報入力しながら、細胞は自らの行動を、進めたり、止めたりするのです。独断では決めずに、さらに、他の細胞へと出力します。精神疾患では、この働きをする突起(シナプスをつくる部位)の働きが、うまくないのです。さらに、この部分は、環境が大いに影響する場所で、精神疾患の発症には、環境因子が大きいです。

こうした事実は、例えば、統合失調症のモデルマウスとか、自閉症モデルマウスとかがつくられ、研究が進みました。

自閉症の人は、社会的コミューニケイションの障害があり、常同的、反復的、限定的行動をとることが指摘されています。原因究明に向けて、自閉症の人の遺伝子検索がなされ、それぞれ人ごとに異なる複数の場所の遺伝子の問題点がみつかってきました。

遺伝子異常の1種に、遺伝子の重複というのがあります。これは、普通の人では、1個の遺伝子であるはずが、特定の遺伝子を複数で持ってしまう人がいます。広島大学の五林らの研究から、15番染色体(15q11-q13)の遺伝子が多く存在してしまうことが、自閉症の数%に証明できるとしています。

さらに、遺伝子を複数で持つ事が、病気につながるかどうかを、動物モデルを用いて研究しています。遺伝子が重複していると、遺伝子からつくられる物質が多くなります。脳に過剰な蛋白がつくられてしまうと、情報伝達がうまくいかず、その結果、行動異常が起きると言う事実を、マウスで証明しました。

自閉症モデルマウスを、人工的な遺伝子操作で作り出しました。そのマウスにいろいろなストレスをかけてみました。例えば、新人マウスに興味を示すか?泳がせて、水中の足台にたどりつけるか?行動訓練を行い、条件を変化させると、変化に対応できるかなどのテストです。

この結果、自閉症モデルマウスでは、新人マウスに興味が少ない、訓練通りの作業はこなせるが、条件をかえてしまうとその呑み込みが悪いなどの、行動の変化が観察されたのです。
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