これを皮膚感作と呼びますが、皮膚から入ることで、IgEタイプの抗体をつくりやすくなるのです。この知識は、以前には一般的でありませんでした。

いやなものを吸い込んだ時に、気管支(気道)が狭くなるのは、体を守るために起きてくる防御的な生体反応です。この気管支(気道)が、狭くなる反応が強く起きるのが喘息です。気管支が強く縮んでしまうので、息が苦しくなってしまいます。
 
喘息は、ヒューヒューして、息が苦しくなる病気ですが、何が原因で、喘息発作になっているかをみつけるのは難しいです。
一般の人では、ひとつの物質が原因で、喘息が起きてくるわけではなさそうです。
気管支が強く縮む人は、気管支の調整が悪いのです。この気管支が縮み易い体質、すなわち、気道の過敏な体質を持つ人のことを、喘息の素因を持つ人と呼びます。
 
喘息発症は、環境と素因の両方が発症原因であるとよく言われます。人が吸い込む空気の条件が悪くなると、まず、気管支の調整が弱い人から喘息が発症し、空気の条件がさらに悪くなると、その次に弱い人に喘息が発症します。そして、段階的に、喘息を持つ人が増えて行きます。
 
今の日本人の喘息は、原因がわかりにくいです。日本人の喘息は、原因としてダニが多いと言われていますが、実際には、喘息とダニとの関連は、それほど、はっきりしません。以前は、ダニが原因と言われる時代がありましたが、今は、反省期です。
まして、咳喘息と呼ばれる病気がありますが、喘息だか、喘息でないのかあいまいで、何が咳の原因かは、わかりません。
 
気管支の弱い人に喘息が起きてきますが、職業として濃厚に吸い込む物質によっておきてくる喘息に、職業性の喘息があります。環境因子が極めて強く、特定の物質(抗原)が、喘息発症に関連するタイプです。
 
この職業性の喘息を理解することは、喘息という病気の全体像の理解につながると思いますので、ここに紹介します。
 
職業性の喘息は、吸い込む空気に、病気の原因があることが分かっています。つまり、喘息はいかに発症してくるかの人体モデルとも言えます。
 
職場環境で長時間、繰り返し吸い込んでも、皆、喘息になるわけでなく、喘息を起こす物質は、特殊な構造体を持ちます。その特殊物質が多い環境に限定して喘息が起きてくるのです。実際に、特定の職場で喘息が多発するという事件が起きて、始めて注目されることになります。
 
肌につけるたくさんの化粧品がある中で、小麦入り石鹸だけが、多くの人にアレルギー症状を起こした事と共通します。
 
それでは、強い酸とか、アルカリとか、咳がすぐ出るような刺激性薬品ではどうでしょうか?人が、閉鎖環境で、刺激性の薬品を使っている時は、アレルギー型の喘息とは別の病気になります。
 
アレルギー型の喘息は、蛋白性の物質のうち、人の免疫を刺激する特殊な構造体を持っているのです。人体実験のように、人は、この構造物と触れてしまうと、多くの人に、喘息を発症してきます。アレルギーや喘息の素因が無くても、喘息が起きてくるようになります。
 
喘息の元となる物質(抗原と呼ばれる蛋白質)を吸い込むと、喘息発作が起きるものを、アレルギー型の喘息と呼びます。抗原吸入と、喘息発作との関連がはっきりしています。
 
つまり、職場で作業すると喘息が起こり、職場から離れると、喘息が治まる事実がはっきりしているのです。
つまり、喘息の元となる物質(抗原)を避けて行くと、喘息は起きなくなります。治療をしなくても、発作は治まってくれるのです。
 
この職業性喘息の代表的なものが、ホヤ喘息です。
ホヤは、カキの殻につく軟体動物で、広島では、カキの殻にホヤがついてしまうので、作業員がカキの身を出す時に、この軟体動物ホヤから出る液体を吸い込んで喘息になりました。
カキの作業する人(主として女性)が、高い確率で喘息になってしまいました。作業に行くと喘息が起きるが、一晩寝て朝方になると喘息が治まるため、又、翌朝、作業にでて喘息となり、次第に喘息が悪化していくようです。
最初は、カキが喘息を起こすと考えられたようですが、これはすぐ否定されました。
 
今の知識と少し違うことは、ホヤの液体を吸い込んで喘息になると、当時の研究者は皆、信じていたようです。
しかし、今のアレルギーの知識では、皮膚や粘膜からも、かなりホヤ抗原が作業員の体内に入り込んだ結果、喘息の原因になった可能性を考えます。
これを皮膚感作と呼びますが、皮膚から入ることで、IgEタイプの抗体をつくりやすくなるのです。この知識は、以前(2000年以前)には一般的でありませんでした。
 
ホヤ喘息は、1960年頃から研究が進み、2000年には喘息発症の全貌が明らかになりました。
そして、職場環境の改善があり、ホヤ喘息は減ってきています。
 
ホヤが喘息の原因であることをつきとめるまで、臨床医、蛋白分析の専門家など、多くの研究者の熱い努力がありました。当時は、アレルギーの反応の有無を確かめるのは、皮膚が赤くなるかを、人の皮膚で調べると言う生体検査しか手段しかありませんでした。
 
患者さんたちは、何度も皮膚テストをされたり、喘息を誘発させられたりしました。まさに、患者さんたちは、体を張って病気解明に協力しました。医師たちも、自らの皮膚を使って、アレルギーの実験を繰り返しました。
治療のために、ホヤを精製してホヤ抗原を作り、患者さんに注射して、減感作療法も行いました。その治療成績はすばらしいものでした。

この一連のホヤ喘息の研究により、わかったことは、

○世の中に存在する、あるとあらゆる物質の中で、人間に喘息を起こす能力の強い物質が存在する。この構造物に高濃度で暴露されると、多くの人がアレルギー型の喘息となる。

○アレルギー型喘息は、原因となる物質(抗原)をみつけて避けることが一番大事

○アレルギー型喘息は、注射による減感作療法が効く。 注射で抗原を人工的にいれることで、体の免疫が変質する。つまり、IgEを作るのを止めて、IgGを作り始める。このIgGが、過敏なIgEの反応を抑えることができる。その有効率は、100%に近い。

○カキの作業を開始して、早い人では、1-2か月で喘息となるが、長い人では、15年たってから喘息となる人がいる。

○ホヤ喘息では、家族歴で喘息の人は多くない。この意味は、環境が悪ければ、アレルギー体質がなくても、喘息が起きてくる事実を証明している。
 
病気の発症には、極めて個人差が強い事がわかる。免疫の調整力の高い人は、環境が悪くても喘息になりにくく、健康を維持できる。しかし、調整能力が破たんすると、喘息が起きてきてしまう。一方、調整能力が低い人は、少しの刺激で、すぐに喘息が発症する。
 
○健康な人(喘息で無い人)でもホヤに対するIgEを持っている。つまり、IgEを作ることは、その時点では喘息発症とは必ずしも関連しない。
 
○くしゃみ、鼻炎、結膜炎(目のかゆみ)の症状が先行してから、喘息発作が起きる。抗原が最初に触れる部分、鼻とか目とか、顔の表面の粘膜から、アレルギー反応が始まる。顔の表面が先行し、喘息発作はやや遅れる。
 
今は、作業環境とか行政の管理がきびしくなり、職業性のアレルギー型喘息が集団的に発症するということは無くなりました。
 
現在、不幸な出来事であった職業性の喘息は少なくなり、職場の環境が良くなっても、現在も、喘息はあまり減っていません。人の方の反応がおかしくなっているのでしょう。今に残っている喘息については、その解明のアプローチは難しいものとなっています。
 
 
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