患者さんの言葉に、救われる。

最近、風邪や胃腸炎で受診した子どもに対して、薬をほしがらないおかあさんが増えてきている。
 
下痢や鼻水は、病原体を排除するためのものだからなどとする考え方が浸透してきたためであろう。
母親が、「咳や鼻水は、治すために必要ですよね!」と言ってくれると、医者はほっとする。薬は、そんなに効かないと思うからである。
 
日常の診療で、親のコメントに、時々、新鮮な感動を感じることがある。
 
先日は、インフルエンザのワクチン後に、局所の腫れが強く、発熱もしていた1歳時がいた。
 
これだから、ワクチンが恐いなあと、誰もが思う瞬間だが、母親は、「こんなことなら、インフルエンザにうつった方が良かった!」と言った。そして、このお子さんのご家族では、皆がそう言っているとこのとであった。
幸い、この子は、その後、特別のこともなく軽快した。
 
現実にかかってしまった病気で、子供どもに後遺症が残るより、ワクチン被害による後遺症が残る方が、親にとってはつらいものである。ワクチンなら、打たないという選択肢があったからである。打たなければ良かった!と、どんなに親は強く思うものあろうか!ワクチンの中止を訴える母親は、世界中にいて、ネットで中止キャンペーンを続けている。米国などで、教会活動を軸に活動をしていたりする。
 
薬を使わないという親の考え方は、良い傾向ではあるのだが、問題点もある。
 
欧米では、風邪の時に抗生剤を出さないとする医師教育も盛んだ。オーストラリアなどでは、国家的な政策として、抗生剤の使い過ぎを批判するキャンペーンが盛んである。そのためであろうが、マイコプラズマのマクロライド耐性率が、日本やアジアと比べて欧米は低い。
 
日本では、熱が出るとすぐ医師のところにくるが、これも世界的趨勢とは違う。
 
医師の立場からすると、早めに受診をしても、あまりやれることは無い。
早期発見、早期治療は、難しい。治療するには、見極めが大事である。
 
日本では、薬を飲んで病気を治すと思っている人が、まだまだいるとは思う。痛み止めも、鼻水止めも、基本的には不要である。
 
しかし、ここに落とし穴がある。現在の日本における診療の場では、風邪に混じって溶連菌感染症がとても多い。季節を問わず、かなりの人々に溶連菌感染症が起きている。溶連菌感染症は、抗生剤なしで様子を見ると、悪化する。
 
最近、立て続けに、耳鼻科で抗生剤を出さずに、様子をみていたお子さんが、体に発赤や発疹がでてきたしまって、小児科にきた。二人とも、溶連菌感染症であった。これなどは、耳鼻科で、早めに抗生剤が投与していれば、良かったケースである。
 
溶連菌感染症は、診断できると(結果が陽性だと)、感謝されることが多い。母親のコメントとして、「今日、こちらに来て良かったです。」と、言ってもらえる。
 
多くの風邪は、自宅でしばらく様子を見てよいものである。しかし、現実には、風邪であるとは、後にならないとわからない。自宅で様子を見ないで、受診した方がよい病気は多くないが、その数少ない病気の代表が、溶連菌感染症だろう。抗生剤が著効し、早く医者に来て良かったといえる。
 
溶連菌感染を早く見つけたいと思うものの、診断の決め手は無く、咽頭発赤と発熱があり、風邪との鑑別はできない。

風邪だと思って教科書通りに、抗生剤を投与せず、様子を見ていれば、発熱が続き、発赤の増強やイチゴ舌なども出てきて、溶連菌っぽくとなるとは思うが、それでも、似た病気は多い。ウイルスも細菌感染症も、子どもの生体反応は、共通なところも多い。
 
特に、溶連菌の診断は、初期のうちは難しい。元々、アレルギー性鼻炎があって、鼻汁を伴う子どもであれば、ますます風邪との鑑別はむずかしい。
 
「こんなに熱が高いのはおかしい!」と言うイライラした感じの女性がいた。彼女自身が、溶連菌が陽性であった。母親である彼女も、溶連菌陽性を聞いて、納得の表情であった。イライラも軽快したようであった。展望が見えれば、人は落ち着くものである。
 
早く熱を下げてくれ!と、イライラした感じの患者さんが時にいるが、多くの場合は、医者にそんな能力はない。
 
そうした訴えを聞くと、苦し紛れに、医師は、「熱は高いのより、長い方が、より問題です。」と言ってみたりする。
患者さんが「点滴をして、早く治してくれ!」というのも、困る。
 
誰かが、病気は薬で治るという信仰を、人々の間に作ってきてしまった。
 
風邪の時の抗生剤は、確かに不要であるとは思うが、実際の人の気管支では、ウイルス感染が起きると、細菌感染も続いて起きやすくなるも事実なのである。
 
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