河合も、女性の望ましくない生き様のひとつとして、「既成の道徳の鎧によって、生きた心の動きを被っている人」との表現を使っている。

 
河合隼雄の解説するアニマについて、もう少し、女性の立場に立って書いてみましょう。
 
アニマは、男性のもつ女性の理想像であるが、逆に、女性のもつ男性理想像は、アニムスと言うらしい。
 
ユング、フロイドは男性であり、現在紹介している河合隼雄も、又、男性である。男性たちは、アニマについては書きやすいだろうが、アニムスについては、想像で書く、あるいは文献的に考察するしかないのだろう。
 
昔話自体も、男性的な要素が強い。それは女性の美しさが、ことのほかに強調されている点においてである。
 
河合もその著書「昔話の深層」の中で、女性の美しさを何度も強調している。女性の美しさは、誰をも納得させる強い説得力を持つ。昔話に登場する美しい主人公は、多くが姫であるが、姫でない場合でも、必ず若い娘でなければならない。

(赤字が河合の文章)
とにかく、美人であるということは本人にとっても、周囲の人間にとっても、大変なことである。美人であるということで人が集まってくる。美貌というものを自分と同一視できる人は自分自身に価値があるので、人が集まってくるのだと思う。勢い、その女性は傲慢にならざるを得ない。
 
他方、簡単に(美人であると)同一視できない女性は、自分自身の価値と美貌を分離して考える。自分の周囲に集まってきる人は、「自分を価値ある人間と思ってくるのではなく、自分の外面をあてにしている」と思い始めると、その人はむしろ自分の美しさをのろいたくさえなってくる。
 
この文章は、河合が複数の美しい人に接して得た感想なのだろう。
 
女性には、「美しい!」とほめられることで喜ぶ人と、喜ばない人がいるとの河合自身の経験からくるのかもしれない。
 
今でこそ、「美しいですね!」はセクハラになってしまう。本当に美しい女優さんが、テレビでアップで映り、周りの人たちが、「美しいですねえ・・」と言われても、正直にうれしそうな顔をする女優さんは少ない。
 
こうしたときの女優の頭は、さまざまの思いでいるだろう。
河合の想像するように「顔より、私の演技を見て!」とも考えてもいるだろう。
 
しかし、それだけでなく、彼女たちは、「美しく写っていなければならない」の重いプレッシャーを感じるがために、素直に喜べない原因があるのではないか?と思う。
 
美しい人は、その衰えに敏感だ。今の美しさを維持するための不安や、苦労の重圧を感じたりもするだろう。
 
そして、美しさの中で「あと10年たったらどうなるのだ」とか、「素顔でも美しいだろうか?」などと、いろいろな悩みが湧き上がる。
 
「歳をとったら見られたくない!」との女性の心境は、原節子に代表される。
 
美しい女性ほど、美は永続的でなく、絶対的なものでもないことに気づきやすいと思う。美しさを仕事に使っている人なら、なおさらであろう。
 
昔話は、そのストリーに登場する若い女性が押しなべて美人であるのと対比するように、物語の老女は醜い。
わし鼻は、若いときに鼻の高かった西洋女性に起きる加齢現象の象徴である。それが醜いとされる。西洋では、わし鼻は、悪いこと、不吉を象徴させるものなのである。
 
幸い、鼻の低い日本老女ではわし鼻現象は起きないものの、口元の梅干じわ、出っ歯、腰曲がりが容赦なく描かれる。
 
 
かつての日本の子どもたちでも、白雪姫に登場する魔女を見て、わし鼻は悪の象徴であることを知っていた。
しかし、それが普通の女性にもおきるしかたない老化現象であるとの認識は日本には無かった。
 
物語に登場する老女は、わし鼻だけでなく、歯もぬけている、腰もまがっている、手も節くれだっている。そうした女性の誰にもおきる加齢現象が、物語の醜いものの象徴となることは、女性の視点からすると、やりきれない気がする。
 
こうした女性の視点で、ものを考える女性心理学が、もっと論じられても良いと思う。男性心理学者が活躍する時代では、こうした女性の視点に興味が向かないし、無視してしまうものだろう。
 
しかし、女性心理学者が増えた現状においては、女性心理の悩みにしっかり向き合えているのであろうか?加齢を防ぐとするエゼ情報への批判が語られているだろうか?
 
男性側だけがあれこれ女性の心を想像しても、所詮、彼らにはできない。しかし、彼らは、女性の思いを受け止めることはできる。
 
これは、現状における女性の病気への理解不足についても、まさに同様のことが言えるのである。
 
河合心理学で語られるアニムスは、男性が想像する世界におけるアニムスということになる。
女性に中にひそむ男性的な理想については、男性は一定の理解を示すものの、御しがたいものであると、河合も言っている。
 
さらに、河合はユングの記載を引用して書いている。
 
ユングは、アニムスは女性の無意識の中で次第に力を持ち始め、意見を主張させると言っている。女性は「・・・すべきである」「・・・でなければならない」と考え始める。それは一見正しいのだが、現状にそぐわない類のものであることが多い。
 
河合はアニムスを姫の言葉として、以下のように語らせている。赤字は引用

トーランドット姫は、宣言する。「私は自由に生きたいだけなのです。私は自由に生きるために、自然は武器として私に独創的な頭の働きと鋭い知力を与えてくれました。・・・私は侮辱された同性のうらみを、威張っている男性に向かって晴らしたい。」
 
アニマ、アニムスが、男女でお互いに受け入れられない側面を持つために、それをストレートには外に出さず、その人の中でコントロールすることになる。
 
われわれ人間は社会から期待されている仮面をつけ生活をしなければならない。
男は男らしく、女は女らしく言われているような一般的な期待傾向が、それぞれの社会には存在している。
 
それに答えるペルソナ(仮面)をつけることによって、われわれは社会に中に自分自身の地位を占めている。男性の中の女性的な傾向は、ペルソナの中に取り入れられないので、アニマとして無意識の中に潜んでいる。これは女性の場合も同様である。
 
ここで、ペルソナが強くなりすぎて、アニマを抑圧している人は、社会にはうまく適応していたとしても、自分の存在が危ういことを感じさせられるかもしれない。ペルソナとアニマ、アニムスとの相克は、人間が自己発現の過程で深刻に体験させられる葛藤である。

昔の婦人は、仮面が重く、容易にはずすことができなかった。その結果、仮面の中にどっぷりと浸り、賢い妻を演じたりができた。昔の女性は、妻として、自らの価値観を変ようと心の作業をしたと思われる。
 
夫に愛人ができて、子どもが生まれても、その子をわが子と分け隔てなく育てるという生き方をめざすとか、愛人と一緒に同居して仲良く暮らすとかの生き方である。
 
しかし、女性の視点からすると、こうした女性の生き方が理解できるのは、夫の身分が高い、何からの身分的称号がある、お金持ちで周りからも尊敬されている夫の場合ではないかと思う。
 
こうした境遇では、妻なる女性は、賢い生き方をすればそれが評価され、夫の身分を享受できた。
そして、まわりの上流婦人たちも同様な家庭環境にあるため、夫の愛人を我慢したり、受け入れたりすることができたのではないかと想像する。
 
女性が、自身の人生を自分自身で選び取ろうと飛び出し、失敗してその身が破滅してしまうストリーも数多い。アンナカレーニナの悲劇などで代表されるだろう。
 
有吉佐和子の名作の紀ノ川でも、夫、子どものためだけに生きてきた女性主人公は、最後に、その膨大な財産を自分の好きなように処分してしまう。女流作家ならではの結末であるような気がする。
  
男性によるアニムスの解釈では、女性の独立精神についての考察は不十分である。というより扱いが難しいのだと思う。
 
河合によれば、日本の男性は、まだまだ、女性のアニムス部分をしっかり受け止める準備ができていないと書いてくれているので、今後は、心ある男性のアニムス意識は改善しつつあるのだろう。
  
この点については、現時点において、男性の理解が進むのを待つだけでなく、平行して、女性自身が自らの心を説明していく必要がある。女性自身が語るアニムスが、もっと積極的に論じられることで、男性の女性への理解は進む。
 
しかしながら、河合は、女性が、女性自身の中のアニムスに気づくことなく人生を送れる人は幸せであろうとも、皮肉的に書いている。
男性が女性に安定した結婚生活を与えてくれて、波乱万丈なく、男性の愛と庇護に満足できる人生を送ると、考え方が偏るということなのかもしれない。
 
アニムスが無い人生も、女性にとって問題があるのである。
 
11月4日の学とみ子のブログに書いた、気遣いを得意とする老妻からの新聞投稿のストリーを思い出してほしい。http://blogs.yahoo.co.jp/solid_1069/11395635.html
 
彼女は、人のため、美術鑑賞のため、音のでるヒールは履かないと、自らの品行方正を新聞に書いている。
しかし、新聞の投稿文を読んだ人は、老女のハイヒールへのジェラシーとみなす。世間には、安住した老人に冷たく、皮肉的に見る人がいる。
 
河合も、女性の望ましくない生き様のひとつのかたちとして、「既成の道徳の鎧によって、生きた心の動きを被っている人」との表現を使っている。こうした人では、何か破綻がおきると、自分自身で対処することが難しいのだろう。アニムスが欠けているからである。
 
女性にとってのアニムスは、自分の境遇を第三者的(男性的に)にみつめる手段でもあると思う。

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