治療現場以外でのアトピー性皮膚炎の患者さん

アレルギーの病気は、一生を通じて人を悩ませることがあるが、アトピー性皮膚炎もそうした病気だ。この病気は、病変が目でみえてしまうこと、かゆくてつらいと思う程、皮膚へと手が行ってしまい、皮膚は悪化していく。

皮膚を掻きながら、アトピー性皮膚炎を治すというのは、不可能だ。

人の掻いた皮膚というのは、自動性に悪化していく。特に成人になると、掻いた後の皮膚の修復が遅くなる。

子供の傷は、かさぶたができてきて、それをはがしてしまって、じくじくになっても治っていく。かさぶたの下で、正常皮膚がすみやかにできあがるからだろう。

しかし、成人は、こうした修復が遅くなる。そうした意味で、成人のアトピー性皮膚炎は、治りが悪いように思う。皮膚の免疫が複雑になっていることも影響しそうだ。
 
成人の皮膚は、掻いた後の変化が回復しないどころか、新たな丘疹が出来てきて、新たな病変が広がっていく。小児と比べて、成人のアトピー性皮膚炎にそうした傾向があるのは、皮膚の新陳代謝の低下や、複雑な免疫反応によるのではと予想する。
 
子どもは、皮膚がかゆくても、遊びに集中できるが、成人患者さんは、皮膚の事で頭が一杯になり、それだけになってしまう人がいる。
早く治そうとあせるだけに、患者さんのいらだちは大きい。
 
痒疹というのがあって、これも、掻く事によって悪化する。丘疹ができるようになると、もう治らないようだ。少し、触れただけで、常に痒さが復活するからだ。
 
しかし、かゆみは医者にいくら訴えても、医者にもどうすることもできない。
医者に訴えても、何もしてもらえない症状というのはいろいろあるが、かゆみもそうした症状である。
 
医者は「掻くと悪化しますよ」と言うだけである。この言葉に、患者さんは、イライラするだろう。
「そんな事はわかっている!だから、このかゆみを何とかして欲しい」と思うだろう。
しかし、慢性化したアトピー性皮膚炎は、医者には治せない。
じゃあ、治らない病気なのか?というと、そうではないと思う。

ネットに、「私はこれで治した!}などという書き込みがあるが、治したというより、病気が軽かったために、皮膚が本来の機能を回復したという程度のことだと思う。
 
いかに、皮膚を清潔に保湿し、手を触れないで、皮膚の回復力を気長に期待し続けることができるが問われる。これは、能力と努力の部分が大きいと思う。
 
“掻かないでじっと待つ”、という悟りができるかどうかが決め手だ。
 
他力本願で、掻きながら治せと医師にぶつける状態では、高まる不満で、アトピー性皮膚炎は悪化してしまうと思う。アトピー性皮膚炎がひどいから、仕事ができない!かゆみがひどくて集中できない!などとなると、さらに、病気は悪化してしまう。

皮膚科の外来に通ってくるアトピー性皮膚炎の患者さんと、診療以外で会うアトピー性皮膚炎の患者さんの層は、若干、異なっている。
診療所に通う人は、医者に治してほしいと期待を持っている人が中心だ。

一方、別の機会では違う。 例えば、一般検診に来るアトピー性皮膚炎の成人は、すでに医者に期待していない人が多い。全く医師の治療はしていない人と、ステロイド薬の処方の時だけ、たまに行く程度の人がいる。ステロイド薬を使う量も、使い方も、患者さんで決めている。
 
ステロイドは過去に使っていた人が多いが、ステロイドの副作用や限界も経験している。ステロイドの使い方も、その人なりのやり方で、塗る量を決める。
患者さんの重症度はさまざまであるが、自らの治療方針を持っている。
 
かゆみ、痛みが慢性である場合、一生懸命に医者に訴えても、だめなのだ。
長い間、アトピー性皮膚炎を抱えてきたが、医者にもう行っていない人は、その人なりの対処法を持っている。
 
「僕のアトピー性皮膚炎は、夏の汗の時期に悪化します。仕事をすれば汗が出るので、汗をかかないようにすることはできない。だから、暑い時期が終わるまで、待ちます。」
とある自動車整備工の方が言った。彼は、皮膚の回復を待つ事が大事なことを知っている。
 
アトピー性皮膚炎が重症でも、なんとか付き合っている人の様子を見ていると、確かに手はあちこちの皮膚に向かうが、掻くのはほんの少しの部分である。
背中は掻くけど、顔は絶対に掻かないようにしているという人もいる。
 
重症だが、皮膚にあまり構わないように心掛けることができる人がいる。
確かに皮膚はかゆそうだが、掻く時は、短時間で少ししか掻かない。同じ場所は掻かないなど、その人なりのルールがある。
 
ある若い女性は、顔がきれいだが、腹部の発赤が強い。聞くと、彼女は、顔は絶対に掻かないのだと言う。その反動で、お腹に手が行ってしまうのだと言う。
 
難治だが、命取りではないものは、治療の選択は、患者さん主体にならざるをえない。

ベテラン患者さんは、皮膚が悪化することがあっても、軽快することもあることを知っている。
何が悪化させるかを知っている。そして、その対処法を持っている。
時間が過ぎるのを待つことができるということも、治療法なのだと思う。
 
かゆい時は、がまんする、数秒で掻くのを終えるなど、こうした努力をしないで、アトピー性皮膚炎を治すことはできない。
 
もちろん、軽症な人は、ステロイドを数回塗って解決してしまうのだが、こうした人は病気の質が違うのだ。
 
とにかく、患者自身で気付くルールは、とても大事な対処法だと思う。
 
中には、こうしたことができず、ドクターショッピングを繰り返してしまう人もいるが、医者にかゆみを理解してもらおうと必死になる傾向がある。そして、医者に裏切られたと感じ、医者を変え、最初の期待が裏切られると、やっぱりこの医者でも治らない、一生治らないのか?と考えて落ち込んでしまうようだ。
 
本来の皮膚は、炎症を起こしながら、修復につとめようと必死になっている。だから、修復力が発揮されるまでには、時間がかかる。それを信じて、皮膚の治す様をそっと見守ることができるかどうかである。正常皮膚を維持するためには、かなりの調整作業が行われているが、人は気づくことが無い。こうした連携が少しでも崩れると、皮膚は正常には戻らない。
 
皮膚の表面では、菌やカビが常在している。しかし、ある種類の菌やカビが一方的に増えようとすると、皮膚の免疫細胞が反応する。増えようとする菌やかびと闘う。
 
少量の菌やかびなら、皮膚は増殖を許し、妥協もしている。目に見えぬ病原体との攻防のために、皮膚は赤くなり(血管を拡張)、しこり(炎症細胞が集まりながら)、かさかさし(脱落させる)、元の健康な状態に戻ろうとしている。
こうした皮膚の炎症を、途中で止めるのがステロイドであるが、効果に限界があるのだ。
 
アトピー性皮膚炎は、皮膚が良くなったり悪くなったりしてする。
こうした類の病気は、医者にとって一番、悩ましく、手ごわい。
 
一方、皮膚の病変が進行していく場合は、悪性であり別の病気である。こうした時こそ、医者の診断や指導がものを言う時である。
 
逆に言うと、アレルギーやアトピー性皮膚炎と言われている間は、医者は、それ以上の診断はできず、又、特効薬を持たない。
 
しかし、これは今のレベルの医学の限界にすぎない。今後は、どのような特効薬が開発されていくのかは、やはり期待して良いだろう。
 
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