1941年、毛細血管拡張性運動失調症という病気が発見され、この病気を持つ人は、白血病、がんを、若い時期に発症することがわかりました。1971年には、この患者由来の細胞が放射線感受性と染色体不安定性を示すことが分かりました。つまり、この辺りから、染色体が次世代細胞に、正確にDNAを2分割できないことが、がん化と関係することが見え始めました。
細胞分裂の時に、形成される器官(動原体、紡錘体など)を構成する蛋白などに異常が起きることが、がん化を発生させるとする研究があります。がん化の根源にせまる機序かもしれないと期待されていますが、解決は難しく、現在も議論が続いています。遺伝子の変化は、がん化の重要ポイントですが、どの時点で起きる遺伝子のイベントがその後のがん細胞の増殖に影響するのか、いまだ、手探りの状態が続いています。
細胞が分裂し、2個の正常細胞となると、2倍体細胞が2個できますが、がん細胞では、染色体がうまく配れず、例えば、1倍体や3倍体に分かれてしまうミスが起きます。分裂後の娘細胞に、均等にDNAを配れないことが、がんの発症の根源ではないかの議論は、現在まで、ずーと続いてきました。1998年のネーチャーには、すでに数10年前から、細胞分裂時の異常が、がん発症の根源になるうるのかの議論が続いているとありました。がん細胞では、染色体の数が、正常細胞(22n+XX or XY)とは、違ってしまう変化が起きることは、案外、しられていないのではないでしょうか?
染色体や遺伝子の不安定性には2種類あり、DNA塩基の欠失や挿入といった、塩基配列を細かく調べてみつかる異常と、もうひとつは染色体の数の異常など、ダイナミックな大きな染色体異常があります。ERの陽性がんは、陰性がんと比べると予後が良いとかは、すでにかなり知られた知識のようです。ER陰性の中にもかなり予後の良い乳がんがみつかってきており、遺伝子の検索が進むほどに、従来知識を超える知見が増えてきますので、予後は悪いかもしれないがんでも希望を持ちたいものです。
細胞分裂を進行させるサイクリンと呼ばれる蛋白酵素や、細胞分裂の時に現れる動原体関連蛋白の構造異常などが、その後にがん化の染色体異常を起こす原因候補として、挙げられています。つまり、こうした蛋白質がうまく働けないと、染色体が均等に引っ張られていかないために、染色体が等分されないのです。この染色体の異常は、がん化を防ぐp53などの異常につながります。蛋白キナーゼの構造を持つATM蛋白は、DNAの傷を感知してがん抑制蛋白p53をリン酸化して、p53が活躍できるようにします。
染色体異常をひき起こす共通の機序が、がん細胞に内在しているのか?“なぜ、がんは起きるか?それはどの時点か?””最初のステップが重要なのか?あるいは違うのか?”は興味深いですね。がん化時点の発見に期待していきたいです。細胞分裂に関連する特定蛋白が、がんの性状や予後と関連するとなれば、治療のターゲットは広がります。今後も、がん化の根源解明は、多くの人が待ち望むものと思います。
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