外傷後ストレス症候群に、エストロゲンはどのように働いているのか?ネーチャー論文より

ネイチャー最新号にPTSD(post-traumatic stress disorder;直訳は外傷後ストレス症候群、日本語では心的という文字がつくことが多いです)と、エストロゲンとの関係が載っていました。英文サマリーだけの情報ですが、このブログで紹介します。以下に、http://www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php?i=81974
に日本語情報があります。しかし、ここには、エストロゲンの影響については、あまり書いてありません。いづれにしろ、この記事の用語と日本語がむずかしいですが、脳へのエストロゲンの作用は、現在、研究途上であることをお知らせしたいです。
 
アデニル酸シクラーゼ(アデニリルシクラーゼ)は、全身の臓器にあり、細胞が生きるためのエネルギーを作り出す物質です。ATPをAMP (cAMP) とピロリン酸へ分解する酵素です。cAMPは、セカンドメッセンジャーと呼ばれ、多くの細胞膜受容体を操作することができ、細胞のシグナル伝達に重要な分子です。9種類のアデニル酸シクラーゼが哺乳類で知られています。このアデニル酸シクラーゼ活性化ペプチドという物質は、脳の視床下部に多く、食欲などの生命現象をささえています。脳の扁桃体などにも発現し、ストレスからくるメンタルなトラブルの調整に働いていると考えれていますが、詳細は未だ不明です。
 
エストロゲンは脳内の伝達物質として機能しているわけですから、メンタルヘルスに働いています、今回の論文では、女性でPTDSが発症しやすいことと、エストロゲとの関係が言及されています。PTSDの女性では、下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド受容体遺伝子にに異常があるとの研究です。
 
人生でうけるイベントにおいて、ストレスの感じ方は、男女で異なります。極端な例では、男性は戦場で高揚感を味わう動物であり、女性にはそれがないということがあげられます。脳内エストロゲンのストレスへの役割は、複雑であろうと思います。
下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)は、細胞がうけるストレスを修復する作用をもつのですが、今回のネーチャーの記事は、この物質が、実際の人の脳で、ストレスの処理と関係するかどうか調べた研究です。
 
重症のPTSDの女性では、血中の下垂体性アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)が高いという結果が得られました。そのペプチドの遺伝子ADCYAP1と、受容体PAC1遺伝子ADCYAP1R1の塩基配列を調べて、1塩基置換(スニップ)をさがしました。
 
その結果、ADCYAP1R1遺伝子の中の、エストロゲンと反応する部分に1塩基置換(スニップ)がある人では、PTDSになりやすいことがわかりました。そして、その関連は、女性にのみ見られた現象でした。アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)の受容体遺伝子のメチル化が、PTSDと関連しました。(注;遺伝子のメチル化は、遺伝子を働きにくくする)。

恐怖の程度と、人の脳内の受容体遺伝子のメッセンジャーRNA量との相関がありました
(注:どのように測定したかは、サマリーには書いてありません)。
動物のPTDSモデルにおいて、恐怖ストレスをかけたり、エストロゲンを補うことにより、ADCYAP1R1 mRNAの増加を誘導できました。
 
結論 PACAP受容体遺伝子に、スニップのある女性では、ストレス対抗ができにくく、PTSDになりやすいことが示されました。人の脳では、PACAP–PAC1の回路の混乱が、PTSDの発症に関連しているようです。この回路には、エストロゲンが関与していて、PACAP受容体遺伝子変異についての今後の研究が待たれます。

以上がサマリーです。PACAPという物質が、PTSDの発症と関係し、その遺伝子異常をもつ女性に、重症のPTDSがおこりやすいと言いたいようです。
人の妊娠中は、エストロゲンが大量に分泌され、女性の妊娠ストレスに対抗できる脳をつくると考えられてきましたが、他の物質との相互作用がないと、そうした方向へは働かないのかもしれません。一般的に、恐れを感じやすいのは、女性の特性とされているので、そこにエストロゲンが関係しているかもしれせん。そして、エストロゲンの女性脳への作用は、他の因子次第で変化するのかもしれません。
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