原発後のロシアでの甲状腺がんのまとめ

発表されたロシアでのデータ論文をいくつか、このブログで紹介しました。今回は、紹介した内容をまとめてみました。
 
放射線障害による発がんの代表的なものが、乳頭状甲状腺がんです。これは予後の良いがんで、1986年のチェルノブイリ事故の後、このがんの発症は、小児を中心に多発しましたが、致死的になった人は、少ないとされています。
 
ブリャンスク地方は、1986年のチェルノブイリ事故の後のロシアの中で、最も高い放射能汚染地区のようです、そこでは、多くの小児の甲状腺がんの発症がありました。原発事故後、2か月以内に地域住民の甲状腺への被ばく量が測定されました。甲状腺に受けた推定放射線量は、ロシア公認の測定線量評価法2000年版を用いて算定されました。
 
汚染地域の甲状腺がんの発症を、ロシアの非汚染地区や、近隣地域に居住する人々のがん発症と比較しています。対照として、どこの地域の居住者を選ぶかにより、被爆者のがん発症相対リスクの数値は変動します。
高度汚染の地区から少し離れた地域でも、がんの発症が増えています。気象条件や個々の人々の条件により、発がんリスク度は、影響をうける数値と思われます。
 
小児では、この地域では、他の地域よりがんが多く発症し、かつ、甲状腺に被ばくした放射線量に、平行してがん発症が増加しました。しかし、成人の場合は、甲状腺へ暴露された放射線1グレイGyごとに、平行的にがんが増えるパターンは、得られなかったようです。
 
まとめると、
1) 事故時の汚染状態の高い地域(ブリャンスク地方)に居住する成人では、甲状腺がんのリスクが、男性1.5倍、女性2倍になる。成人の場合は、必ずしも、周りの地域と比べて、突出してがんの発症が高いわけではない。
2) 小児では、ブリャンスク地方では、がんの発症が、5-20倍位に増える。
3) 95%信頼区間に含まれる範囲の数値幅が大きい。このことは、がん発症に、個人差が大きく反映されることを示すものと思われる。

興味ある方は、実際の論文にアクセスしてみましょう。

実際の論文
1)小児がんの場合
Radiat Environ Biophys. 2006 May;45(1):9-16.
1986年のチェルノブイリ事故時、ブリャンスク地方に居住する0から17歳以下の年齢の子どもにおいて、事故後の甲状腺がん発症状況を、1991-2001年に追跡調査を行いました。居住者における被ばく状況については、ロシア内で公認されている国家的調査データに基づき、甲状腺被ばく量を評価しました。

1989年の国勢調査では、この地域の人口は、37万5000人でした。1991~2001年に、合計199人の甲状腺ガンが診断されました。 がん診断は、95%が組織学的に確かめられました。
甲状腺ガンの発症は、他の地域のがん発症と比較すると、女子6.7倍(5.1から8.6倍の95%信頼区間)、男子では14.6倍(10.3から20.2倍の95%信頼区間)でした。低年齢で被ばくするほど、がん発症は高くなりました。
 
1991-2001年の間で、0-4歳の女児では、内部の人をコントロールとすると、1 Gyあたり増加するがんの発症倍率は、45.3倍 (5.2, 9,953 95%CI;)であり、外部の人をコントロールとすると、1 Gyあたり増加するがんの発症倍率は28.8 倍((95%信頼区間4.3から 2,238 );の数値となると計算されました。
 
1991-2001年の間で、0-9歳の男児では、内部の人をコントロールとすると、1 Gy 当たり68.6倍 ((95%信頼区間10.0から4,520 )、一方外部の人をコントロールとすると、177.4倍と、計算されました。
 
1991-1996年までと1997-2001年までとの、2群間でがんの発症を比較すると、女児では減少し、男児では増加しました(女児のほうが早期に発症する)。PMID: 16544150
 
2)成人の場合
1986-1998年、ブリャンスク地域の成人における甲状腺がんの疫学データです。事故時、この地域住民では、1051人に、がんが発症しました。1989年の国勢調査では、この地域の15-69歳の居住者は、100万人とされています。
チェルノブイリ事故後、5年の潜伏期をおいて、1986 から1998年に1,051件の甲状腺癌が発症しました。(1991年から1998年までは、769人でした)。
 
組織学的にがんが確定できたのは、87%と95%でした。
 
男性においてがん発生率(SIR)は、1986-1990年では、1.27倍(95%信頼区間0.92-1.73)であり、1991-1998年では1.45倍 ((95%信頼区間1.20-1.73)でした。
女性では、1986-1990年では1.94 (95%信頼区間 1.70ー2.20) 、1991-1998 年では1.96 (95%信頼区間1.82-2.1) でした。
 
 1Gy当たり増加する相対リスクは、外部地域の人を対照に比較して算出すると、女性では、-1.3倍(95%信頼区間-2.8-0.1)、一方、男性では-0.4倍(95%信頼区間-3.5-2.7)でした。(訳者注;マイナスの数値であることは、この地域の居住する人は、1グレイあたりに増加するパターンには、ならなかったことを示します)。
 
内部地域の人を対照に比較した場合には、1Gyあたりに増加する相対リスクは、男性では 0.7倍(95%信頼区間-2.3-5.2)、一方、女性では、-0.9倍(95%信頼区間-2.4ー0.8) の数値でした。PMID: 12498517  Health Phys. 2003 Jan;84(1):46-60.
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