自然に起きる現象なのか?人工的な誘導のみで起きる現象なのか?などを考察しながら、STAP細胞を語らなければなりません。

中国発の多能性細胞についての、Shu氏によるレビューを紹介します。
Shu氏が、Cell誌の同じ号に載っているScognamiglio 氏の論文をレビューした文章です。

論文のサマリーを載せても、そのままでは、論文の意図している将来展望がわかりにくいものです。しかし、論文レビューを読むとなるほど!と思う点があります。

たとえば、この論文紹介で一般人が注目したい点は、2点あります。

ひとつは、山中因子のひとつMycという転写因子が働く時と、働かない時では、ES細胞の多能性の維持と分化能に影響が出る事が語られています。
つまり、細胞を分化させず、多能性をもたせたまま細胞を休眠状態におくために、Mycが機能しているとの説明です。

細胞は、遺伝子制御因子の働き方によって、細胞機能が変化します。
ES細胞と、TS細胞は、機能分担を終えた細胞です。
ですから、この機能は普通は行き来しないのですが、その分担制御が狂えば、TS、ESの両者を行き来するかもしれません。
つまり、TSとESを行き来した細胞が一過性に存在していた可能性があります。
そこにSTAP研究者たちが夢中になって実験結果を出した可能性を考えても良いと思います。

もう一つの視点は、こうした細胞研究が人の病気の治療と結びつくとの視点です。
その理由は、このレビューの最後に述べられているのですが、Myc研究は、ヒトのがん研究とその治療に役立つということが書かれています。

Mycは言わずと知れたがん遺伝子です。
以前の学者たちは、がん遺伝子研究を必死に追いながら、正常の細胞の分化過程にも発現してくる遺伝子との鑑別(違うものと思っていた)に苦労していました。
鑑別しなければならないとの使命感に燃えて、研究者たちは、生涯エネルギーをすり減らしていたようです。
(がん遺伝子追及の科学を歴史的に追った シッダールタ・ムカジー著「がん」単行本上下巻 を以前、当ブログで紹介しています)

このShu氏のレビュー(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26871623)は、細胞の機能に興味を持った一般人が、細胞動態を全体的に見たい時に、参考になると思います。
臨床家は、仕事をしていく上で、誰でも理解できるように、大きなくくりから病気を説明しなければなりません。
そうした上で、レビュー論文は参考になります。

グーグル訳が、どの程度に訳せるのかも参考にしながら、少し序文を追ってみました。
Mouse embryonic stem cells (mESCs) are capable of unlimited proliferation without losing pluripotency. Scognamiglio et al. now reveal that Myc depletion shifts mESCs into a dormant state reminiscent of embryonic diapause in which pluripotency remains fully preserved, thus decoupling pluripotency from proliferative programs.

マウス胚性幹細胞(mESC)は多能性を失うことなく無制限に増殖することができる。 Scognamiglio et al。 今やMyc枯渇はmESCsを多能性が完全に保存された胚の休眠を思い起こさせる休眠状態に移行させ、増殖性プログラムから多能性を切り離すことを明らかにしている。(グーグル訳そのまま)

学とみ子の意訳です
マウス胚性幹細胞(mESC)は多能性を失うことなく無制限に増殖することができる。
Scognamiglio らは、Mycを枯渇させたmESCは、多能性を完全保存したままで休止している胚の状態へと移行することを示した。このことから、増殖性と多能性のそれぞれのプログラムは、分けられた機能と言える。

ため息先生は、グーグル訳そのままの方が良いとおっしゃるでしょうから、そうした見解もありと思います。

学とみ子を含む非専門家にとってこうした文章が難しい原因は、細胞が自然に持つ機能と、人工的に誘導された機能とを区別して読み取れるかに加え、専門家が常識的に持つ知識が、非専門家には抜けている点でしょう。

STAP問題を語る時も、細胞が自然に持つ機能と、人工的に操作して得た機能の区別をしっかりするという作業が必要です。

キメラにTCRが無くてはいけないと考えるアノ方などは、こうした自然か?人工か?の機能の違いをまったくふまえていないと思います。
自然に起きる現象なのか?人工的な誘導のみで起きる現象なのか?などを考察しながら、STAP細胞を語らなければなりません。

上記のグーグル訳も、そこに苦労している様子が見えます。
Scognamiglio et al。が単発の言葉になってしまっています。
恐らく、この点は、将来、グーグル訳の精度があがることで改善があると思います。
グーグル訳の精度が上がれば、時代が変わると思いますが、今はまだでしょう。

それでは、全体俯瞰するようなShu氏のレビュー文章(青字)をもう少し読んでみましょう。

私たちの体内では、細胞の代謝や機能は、自然と調整されている。
ところが、一旦、体内から離され人工的な培養状態にされた細胞の大部分は、方向性を失い、それまでは体内で整然と実行できていたはずの細胞機能を忠実に再現できなくなる。

ところが、胚性幹細胞は例外的に、多種の細胞に分化できる多能性を維持したままで、体外でも無制限に増殖することができる。
このように、インビトロ(体外)と同じように、インビボ(体内)でも、多能性細胞を同等に扱えることができる事は、幹細胞生物学の成果ではあるが、それと同時に、どのような分子ネットワークやその経路が細胞運命を決めるのか?を知るためのコーナーストーンのひとつになっている。
幹細胞分野で長く続けられている議論は、多能性がどのように維持されるか?である。
この多能性に関して議論する上で、細胞周期の進行過程や代謝などの他の細胞機能を合わせ考察する事は興味あることではないのかな?
Cellの今月号のScognamiglio らの研究(2016)は、細胞における多能性プログラムと増殖プログラム間のもつれを解こうと試みている。


と、「おもしろいだろう?皆んなで考えようぜ!」とShu氏は書いている。
最後にはこのような文章である。

Mycがヒトで良く知られた癌遺伝子であるという事実を考えると、癌幹細胞におけるMycの保護的役割は特に興味深く、さらなる研究に値する。
 Mycおよびその下流の代謝経路は、癌治療の薬剤標的として広範に試験されている。
多くの場合、これらの治療薬は腫瘍のアポトーシスおよび退行を効果的に誘導するが、Myc関連代謝経路の阻害薬が、本研究で明らかにした休止状態にあるmESCと同様に、腫瘍細胞の一部を生合成休止状態に誘導するかどうかはわからない。
そのような状態の腫瘍細胞は、治療的物質を除去すると耐性が生じ、活性な腫瘍形成状態に素早く戻るかもしれない。
この種の可能性は、本研究から得られた予期せぬ発見として注意深く見守る必要がある。

以上の文章は、今後に訂正するかもしれません。あしからずご容赦ください。

一方で、Scognamiglio らの論文サマリーは、グーグル訳はとてもうまく訳しています。
元の論文が読みやすく書かれているからでしょう。
Cell. 2016 Feb 11;164(4):668-80. doi: 10.1016/j.cell.2015.12.033.
Myc Depletion Induces a Pluripotent Dormant State Mimicking Diapause.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26871632

Mouse embryonic stem cells (ESCs) are maintained in a naive ground state of pluripotency in the presence of MEK and GSK3 inhibitors. Here, we show that ground-state ESCs express low Myc levels. Deletion of both c-myc and N-myc (dKO) or pharmacological inhibition of Myc activity strongly decreases transcription, splicing, and protein synthesis, leading to proliferation arrest. This process is reversible and occurs without affecting pluripotency, suggesting that Myc-depleted stem cells enter a state of dormancy similar to embryonic diapause. Indeed, c-Myc is depleted in diapaused blastocysts, and the differential expression signatures of dKO ESCs and diapaused epiblasts are remarkably similar. Following Myc inhibition, pre-implantation blastocysts enter biosynthetic dormancy but can progress through their normal developmental program after transfer into pseudo-pregnant recipients. Our study shows that Myc controls the biosynthetic machinery of stem cells without affecting their potency, thus regulating their entry and exit from the dormant state.

グーグルの直訳 下線部分のみ変更
マウス胚性幹細胞(ESC)は、MEKおよびGSK3阻害剤の存在下で、多能性のナイーブな基底状態で維持される。ここでは、基底状態ESCが低いMycレベルを発現することを示す。 c-mycおよびN-myc(dKO)の両方の欠損またはMyc活性の薬理学的阻害は、転写、スプライシング、およびタンパク質合成を強く減少させ、増殖停止をもたらす。このプロセスは可逆的であり、多能性に影響を及ぼさずに起こり、Myc枯渇幹細胞が胚の休眠と同様の休眠状態に入ることを示唆している。実際、c-Mycは休眠した胚盤胞で枯渇しており、dKO ESCおよび休止状態の胚盤葉の異なる発現サインは著しく類似している。 Myc阻害後、移植前の胚盤胞は生合成休眠状態に入るが、偽妊娠したマウスに移入した後、正常な発生プログラムを経て進行することができる。私たちの研究は、Mycが効力に影響を与えずに幹細胞の生合成機構を制御し、休眠状態からの進入と退出を制御することを示しています。

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コメント

No title

学とみ子
> WAINSHUTAINさん
有用な情報をありがとう。
どんどん、進んで変化していく領域ですね。
臨床応用は大変です。
1年前に患者さんの体内に入れた細胞より、もっといいものが1年後にはあるという世界かもしれません。
臨床医としては、これしかない!という類の治療だと患者さんに説得しやすいですが、この世界はそういうものではないらしい・・・。

No title

WAINSHUTAIN
>学とみこさん

山中4因子のうちc-mycを除く3因子で成体マウス由来細胞、ヒト成人皮膚細胞からips細胞を作成できて、これからキメラマウスを作成すると腫瘍形成率が低下するそうですね。これは、興味深いです。
不正判定された、血液脳関門の研究も続けて欲しいと思います。
色々研究して頂くとSTAP研究のヒントになるかも。

ご存知と思いますが,mycのpdfのURLを貼らせて頂きます。

ttp://www.cira.kyoto-u.ac.jp/images/100727_Nakagawa_PNAS_J.pdf
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