爆心に近い距離で被爆した人の方が、乳がん発生率は増加し、遺伝子異常も重複していました

長崎・広島で被爆した人における、乳がんの発症率は、1年間につき、10万人当たり54人前後と計算されています。爆心から遠い程、乳がんの発症は減少する傾向がでていますので、放射線は、乳がんの発症に影響することが示されています。乳がんの発症は、爆心から1km以内であれば、90人前後、1.1-1.5kmでは130人前後、1.6-2kmからは、50-55人前後が、おおよそのめやすの数値のようです。
 
今回、紹介する研究論文によると、観察を続けている長崎・広島被爆者の中から、1968-1999年に、593人の乳がんが発症しました。乳がんが発症した人のうち、爆心より1.5km以内に居住した35名、爆心より1.5km以上離れた地域に居住した32名、対照群(がんがあるが被ばく無い群)30名の人を、研究対象としました。各群に属する人たちから、乳がんの細胞を採取しFISH法という方法を用いて、がん遺伝子の状態を検査しました。予想された通り、近距離で放射線を浴びたグループの方が、がんの遺伝子異常が複数で重複して生じていたという結果が得られました。
 
一般的に、発がんには、HFR2、およびC-MYCと呼ばれる遺伝子が変化することが知られており、乳がんにおいてもHFR2、およびC-MYC遺伝子に異常が起きています。今回は、がん細胞に見られるHFR2、およびC-MYC遺伝子異常のうち、遺伝子増幅と呼ばれる現象を調べました。

遺伝子増幅は、発癌した細胞に見られる重要な所見です。遺伝子の増幅とは、遺伝子の数が増えることを言います。遺伝子増幅とは、がん細胞の現象で、特定のがん関連遺伝子(この場合は、HFR2、およびC-MYC遺伝子)において、この遺伝子の数が増加しています。正常細胞では、遺伝子の数が増える現象は決して起きないように調節されていますが、がん細胞では、染色体の正常構造が壊れて、遺伝子を含む染色体が増える(増幅すると表現)という異常事態がおきています。生存に必要な能力を多く、獲得したがん細胞は、浸潤性で悪性度が高いのです。遺伝子増幅は、特殊な能力を獲得した細胞となるので、一般的にがんの悪性度も増強します。
 
原爆生存者で乳がんが発症した人では、がん遺伝子増幅は、どのように起きているのでしょうか?又、他のがん悪化因子や放射線暴露と、どのように関係したのでしょうか?今回の研究では、乳がんを持つ被爆者が居住していた地域が、爆心とどの位離れているのかを考慮して、近距離暴露群、遠距離暴露群と分け、被ばくの無い対照群と比較しました。
 
被ばく群の乳がんの97人(67人の生存者と、30人の死亡者)と対照群から、浸潤性乳管ガン細胞を得ました。蛍光ハイブリッド法により、がん細胞遺伝子のHER2とC-MYC遺伝子増幅の有無を検査しました。これらのがん細胞は、ホルモン受容体の有無についても検査されました。
 
爆心に近い距離で被爆した人の方が、乳がん発生率は増加しました(1kmごとに1.47倍、95%の信頼区間は1.30–1.66)。 HER2とC-MYC遺伝子の増幅は、近距離暴露群の方が、それぞれの遺伝子増幅が多く見られました(近距離暴露群に、HFR2、またはC-MYC遺伝子異常が高率に証明された)、さらに、HFR2、およびC-MYCが共に増幅する現象は、対照群と1.5km以上の遠距離暴露群では、1名づつでしたが、爆心より1.5km以内の近距離暴露群では、8名にみられました。爆心より近距離群では、HFR2、およびC-MYC遺伝子増幅に加え、ホルモン受容体や組織学的検査で判定されたがん悪性度も高くなっていました。Cancer. 2008 ;112(10):2143-51  PMID: 18348306
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