世界のがんは皆違う。放射線の影響ひとつをとっても、がん発症への解析はむずかしい

放射線に関連して発症するがんとして、甲状腺がんは有名ですが、自然暴露量の環境でも、甲状腺がんが生じてしまう人がいます。広島で被爆した人の中には、ほとんど問題とならない線量の人から、甲状腺がんの発症があります。前々回のブログで、はっきりした被ばく量のあった人の細胞では、遺伝子再編成という大きな染色体異常が生じやすいことを紹介しました。被ばくした放射線量の多い人では、遺伝子再編成というイベントが生じやすく、点変異はすくなかったという2008年の広島大学の研究論文をすでに紹介しました。

しかし、この遺伝子再編成というイベントは、がんに限定した遺伝子変化ではありません。Elisei Rら(Clin Endocrinol Metab. 2001 ;86(7):3211-6).は、RET/PTC遺伝子の再編成は、良性の甲状腺結節でも見られると言います。彼らのグループは、チェルノブイリで被爆したベルルーシの小児の甲状腺がんや、良性の甲状腺結節の細胞を調べています。さらに、彼らの研究では、被ばくとは無関係に発症したイタリア人の甲状腺がんの小児や、治療で放射線を受けた後に発症した甲状腺がんにおいて遺伝子の再編成を調べています。それによると、がん細胞では、55%の高頻度で、RET/PTC遺伝子の再編成が起きていたそうです。RET/PTC遺伝子の再編成は、放射線暴露の無いがんでも検出され、さらに、まだ良性の結節の時点でも、すでにこの遺伝子異常を持つ人がいるようです。
 
このような事実は、発がんに至るまでの遺伝子異常の様相は、個人差差や人種差があることを示します。細胞に遺伝子再編成という大きなイベントが起きても、その内容如何でがん発症に至りません。
 
それぞれの人種では、遺伝子背景が違いますので、世界のがんは、皆人種の遺伝子背景の違いを反映しているので、遺伝子の顔付きが違います。放射線の影響ひとつをとっても、がん発症へのい遺伝子解析はむずかしいというところでしょうか?

本日分は、同じ広島大学からの報告です。被爆後発症のがんにおいて、点変異など塩基配列の変化を調べています。発がんの初期に生じると考えられるBRAF(V600E)遺伝子の異常の頻度についての研究成果です。BRAF(V600E)遺伝子の変化は、少量の放射線を浴びた成人型の乳頭状甲状腺がんに特徴的に見られた遺伝子変化であったとしています。このタイプの遺伝子異常のあるがんは、発がんまでの年数が長い傾向(発育が遅い)でした。
 
RASとBRAF遺伝子の点変異や、RET/PTC遺伝子の再編成が起きると、細胞分裂に関係するMAPキナーゼの働きに異常が生じていきます。被爆歴のない(0mGy)17人と、被爆歴のある47人の合計64人から発症した甲状腺がんについてBRAF(V600E)遺伝子変異を評価しました。 BRAF(V600E)変異は、成人型の乳頭甲状腺がんで高頻度に見つかりました。
 
BRAF(V600E)変異のあるがんを持つ人と、変異のないがんを持つ人では、被ばく時に受けた放射線量に差がありました。線量の中央値は、BRAF(V600E)変異(+)がんは18.5 mGyであり、変異(-)がんの156.9 mGyでした。BRAF(V600E)変異(+)がんの被ばく放射線量は、有意に低値でした。さらに、がん発症までの年数を比較すると、BRAF(V600E)遺伝子変異(+)がんは29年、変異(-)がんは21年となり、変異(+)がんで、発症までの潜伏期が長い結果でした(有意差あり、P=0.014)。
 
ロジスティック回帰分析により、放射線量と潜在年数は、それぞれが独立した変数であると確認できました。以上のことから、被爆後の甲状腺細胞は、異なる複数の遺伝子異常に由来して、性質の異なるがんが発症してくると推定されました。Mol Carcinog. 2007;46(3):242-8  PMID: 17186541
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