推理小説風に、カビのしたたかさと免疫細胞の賢さを書きました。

カビ(真菌)は、日常的に私たちの周りにあふれています。水虫も、癜風(皮膚に限局性の細かい鱗屑が付着する淡褐色斑紅班ができる病気)も、カビによる病気です。これらの皮膚の真菌感染は、表層感染といい、表皮の限局された場所でしか、カビは増殖できません。なぜなら、カビは、これ以上中には、入れないからです。
 
例外はあります。エイズのような免疫不全の人では、血液にカビが入り、全身感染を許してしまうのです。しかし、普通は、血液へは病原体は、入れません。もし、入ると、白血球の逆鱗にふれることになります。一方、皮膚の表面は、病原体がいても、構わないのです。少なくとも、免疫細胞は、そのように判断しています。
 
真菌は、しばしば、民間薬やサプリとして使われます。きのこのエキスなどが免疫を高めると宣伝されています。きのこも真菌ですから、免疫細胞(白血球)は、真菌であるきのこ類を危険と判断しますので、排除の免疫反応を起こすのでしょう。それが、ご都合主義的に解釈されると、免疫が高まり健康に良いとなります。免疫細胞の立場になれば、きのこ成分は排除したい物質なので、反応が起きることになります。免疫は、高まりすぎると、人は病気になります。
 
真菌(カビ)は、人にさまざまな病気を起こします。真菌による間質性肺炎、鳥飼病、アレルギー性のアスペルギローシス、カンジタ性気管支喘息などです。しかし、こうした病気は、患者側のなんらかの素因が関係し、だれもが発症するわけではありません。侵入物に対し、異常に反応してしまうという、人側の因子が大きいのです。
 
病気は、外からの原因で起こるものと、内なる異常(素因)からおきてくるものと、大きく2種類があります。現代の難病は、後者の事が多いです。しばしば、両者の鑑別が難しいです。
 
日常的に、誰でも、カビを吸い込みます。大気の1立方メートルには、10の9乗の量のカビが存在し、種類も100を超えると言います。クラドスポリウム、アスペルギルス、アルテルナリア、ペニシリウムなどが代表とされます。時に、私たちは、大掃除などで大量に浴びてしまうこともあるでしょう。しかし、多くの人では、特別の病気にはなりません。その理由を不思議に思う方はいるでしょうか?第一のミステリーです。
 
ミステリーの答えを考えてみましょう。
この疑問にこたえるべく、ネーチャー誌2009年8月27日号、460巻に、真菌と免疫細胞のせめぎあいに関する小論文がありました。
 
この論文によると、吸い込まれた真菌(アスペルギルスなど)に対し、私たちの免疫細胞は、あえて無視しているとのことでした。日常的に、肺に入ってくる真菌に対して、異物をチェックする役割の白血球(抗原提示細胞)は、免疫反応を低下させていることが証明されました。もし、毎回、そうしたカビに、白血球が反応してしまうと、すぐ肺や気管支はだめになってしまうからです。
 
ミステリーは、簡単に解かれてしまったかと思われるかもしれません。しかし、次のミステリーです。免疫反応を低下させたままでは、私たちは体が、カビだらけになっていまいます。
 
第2の疑問です。
ネーチャー誌の実験は、カビ(アスペルギルスフルミガーツス、アスプと略)を用いて調べました。人の抗原提示細胞(白血球)や、マウスのリンパ球などを取りだしてきて、カビと会わせてみたのです。カビのアスプと一緒に培養したり、マウスにカビのアスプを感染させて、白血球の動きを追ってみました。すると天然型のアスプでは、白血球は増加しませんでした。
 
しかし、カビ(アスプ)の菌糸を変質させて、外側の疎水性蛋白をとりさってしまうと、今度は、白血球は反応しました。白血球は、増殖したり、サイトカインを増加して、アスプに対して攻撃性を増しました。白血球は、インターフェロンを増やしました。カビを排除するために、白血球は、本気で臨戦態勢に入りました。この違いの決め手となるのは、カビの表層部にある疎水性たんぱく質RodAの有無でした。
 
つまり、免疫細胞(白血球)は、この蛋白をかぶっている状態のカビは安全と判断し(いつもと同じ奴だ!)、この蛋白が欠損したカビは、危険(いつもと違う!)と判断しているのです。RodA蛋白は、カビの細胞膜の多糖類にしっかりと結合しています。この結合をはがしてRodA蛋白のないカビ構造になると、違う表面構造となります。だから、白血球から怪しまれてしまうのです。生体の免疫細胞は、変装したカビを、いつもと違う危険物が進入してきたと判断しました。
 
それでは、RodA蛋白を持つアスプ(カビ)であれば、人の体内で、どんどん増えてしまう危険はないのでしょうか?恐らく、免疫細胞は、アスプ(カビ)を見逃すことをやめ、急きょ、臨戦態勢となるのだと思います。このミステリーの続きは、以後に・・・
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